ダミーブックとは?デザイン力を生かして自分だけの写真集を作る

学生との対話は、若い世代がどんなことに関心を示しているのかを知る手がかりとなり、鈴木先生にとっても学びであるそう。学生にとっては現役の作家から学ぶチャンスとなっています。

2021年から鈴木麻弓先生が担当している写真基礎演習Ⅲでは、各自が写真集の制作を行っています。写真とデザインの関係、写真集を作ったきっかけ、これからの学生に学んでほしいことなどを聞いてみました。

【そもそもダミーブックってなに?】
写真学科3年生となると、だいたい自分の専攻分野が決まってきます。手製の写真集は、ZINE、ダミーブック、アーティストブックとよばれることもあり、コピー機を使って手軽に作成できるものから、作家のオリジナルプリント同様に作品として扱われるものまで、写真集としての形は幅広く存在します。ヨーロッパを中心に写真集に特化したアワードがあり、世界中の写真家を目指す人たちが応募してきます。手製本といっても、クオリティーは売り物となるレベルですし、紙や印刷なども工夫を重ね、本としての表現を突き詰めた究極の写真集が集まります。

製本している様子。カバー表紙作りなどもすべて手作業で行っている。作品に合ったデザインを考えたり、紙を選んだりすることも楽しみの1つです。

【手作りの写真集を作ったきっかけ】
2016年にダミーブックを作るワークショップに参加したことが始まりでした。私の場合、震災がきっかけでアーティストを目指そうと思ったのですが、「世界中の人にシェアしたい物語があるのに伝える手段がわからない」「今まで撮り溜めていた写真のまとめ方がわからない」、そうした悩みを一気に解決する手段が、手製の写真集だったのです。出版社から本を出すというのはお金もかかるし、ハードルが高い。だけど自分の手で編集をして、好きなデザインを施し、印刷し、綴じることで、コストを気にせず自由に好きなものを作ることができる。つまり自己表現が可能になる。それが魅力でした。

【授業ではどんなことをやるのですか?】
写真集を一から作るには、編集を含めデザインするスキルが必要です。編集と一口に言ってもやり方はさまざまですが、写真は視覚言語ですので、デザインの勉強に似ています。簡単に言えば「絵しりとり」のような、似たようなフォーム(形)、構図、色などを並べることがポイントです。15人のクラスなので、みんなで並べた写真をゲームのように繋いでいくことで、ヴィジュアルランゲージを学び、そこから読み取れる物語を重視していきます。わざと変な写真を選んでみんなを笑わせたり、違う意味でキーとなる写真をみつけ出したり。こうしたグループワークのおかげで、1人ではできなかったことを理解し、学びの幅を広げていきます。次にページのレイアウトをしていくのですが、ここでもデザイン能力が問われます。写真の配置や大きさ、フチの有無、文字の大きさや組み方など、すべての要素が写真集の印象を左右します。ここに正解はないのですが、「どうしたら人に伝わるのか?」を確認し合い、編集を重ねていきます。そのほかに実際に針と糸を使って綴じの練習をしたり、ハードカバーの表紙を作ったりします。より質の高い写真集作りを目指していきます。

絵しりとりをしながら編集セッションを行っている様子。1人で悩んでいたことが、グループワークにすることで、良い意見が出たり、新しい発展へとつながっていきます。

【学生に向けて】
写真というと、撮影のスキルを真っ先に思い浮かべる人が多いかと思いますが、実際にはカメラを使って撮るだけではなく、「写真を使って何かを作る」という表現のしかたもあります。創作活動が好きな人にとって、写真を学び、新しい視覚表現を目指していく道もおもしろいと思います。ダミーブックはまさにその1つ。広い視野で芸術を学んでほしいなと願っています。

写真学科
鈴木麻弓
1977年宮城県女川町生まれ。ヴィジュアルストーリーテラーとして、個人的な物語を通し、作品を生み出している。2017年『The Restoration Will』で、Photobooxグランプリ受賞(イタリア)、 2018年PHOTO ESPAÑA国際部門・年間ベスト写真集賞(スペイン)など、欧州の写真アワードで大きく評価された。主な展示に「あしたのひかり 日本の新進作家 vol.17」(東京都写真美術館 2020)などがある。手製の写真集づくり、インスタレーション展示などを得意としている。
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