恋愛リアリティーショーの制作者が語る“恋リア”の作り方と魅力

撮影現場での山内さん

ここ数年、動画配信サービスを中心に話題の恋愛リアリティーショー、通称“恋リア”。それぞれのプラットフォームがオリジナルの番組を制作しており、番組数もかなり増えている。そんな“恋リア”は一体どうやって制作されているのか、疑問に思ったことがある人も多いのでは。そこで、放送学科卒業生で『恋愛ドラマな恋がしたい』(ABEMA)のディレクターを務めた山内理実さんに恋愛リアリティーショーの演出と制作者から見る魅力について話を聞いた。

恋愛リアリティーショーの演出とは?

――恋愛リアリティーショーはシナリオがありませんよね?そうなると、演出もないと思ってしまいがちです。恋愛リアリティーショーの演出って何をするんですか?

山内理実さん(以下、山内):私が担当していた『恋愛ドラマな恋がしたい(以下、ドラ恋)』は“恋愛ドラマの撮影を通して恋が生まれるのか?”を見ていく番組です。なので、ドラマのオーディションがあったりと、キャストには何らかのミッションが与えられます。このミッションを考えるのは演出の大きな役割ですね。どのタイミングでどういったミッションを与えたら恋が盛り上がるのか。あと、『ドラ恋』は恋模様だけでなく、キャストの役者としての姿も重要なポイントなので、演技指導の先生の意見ともすり合わせながらミッションを考えていきます。

――撮影のときに何か具体的な指示を出したりもするんですか?

山内:どういう物語になるのか、現場ではわからないんです。後で収録した映像を見て、こんなことが起きていたのか!ということもあります。なので、撮影の段階では“こういう風になるはず”と決めつけないようにしています。
ただし、カメラの数は限られているのですべての動きを撮り切れるわけではありません。なので、前後のミッションの内容などを考えつつ、どこに注目したらより魅力的な映像が撮れるかは考えます。例えば今回は男性がどうアプローチするかを見せたいから、男性キャストに注目しながら撮影しよう、などですね。

――シナリオはないけど、ストーリーは存在するわけですね。そうなると、編集が大事になってくるのでは?

山内:編集で見え方が決まってしまう部分があるので、収録した映像をチェックして、どのような見せ方をするとどんなストーリーになるかを考えるのも重要です。例えば、キャスト同士のやり取りはだいたい同時に起こっているんですが、一斉には見せられません。どの順番で見せるかによって印象は変わってくるので、そこは大事ですね。キャストから核心を突いた言葉が出てきたりすると、その言葉の真意が伝わるように映像を組み立てていったりもします。
あとは、キャストのステキな表情をみつける能力も重要です。恋に落ちた瞬間の表情とか。とはいえ、私はよくわかっていなかったりする(笑)。そこはカメラマンのほうがよくわかってますね。

――カメラマンの役割が大きいんですね。

山内:大きいです。カメラマンに教えてもらうことは多かったです。よくカメラマンがディレクターを育て、ディレクターがカメラマンを育てると言われますが、私は駆け出しのディレクターなので育ててもらうばっかりで。でき上がった映像を見てアドバイスをもらうこともありますし、撮った素材を見てるときに“今、ここが注目!”というのがカメラワークで一目でわかるので、ここ使ったほうがいいんだな、と学んだこともあります。

「幸せになるためのコンテンツ」

――制作に携わってみて発見した恋愛リアリティーショーのおもしろさってありますか?

山内:視聴者にどれだけ感情移入して、入り込んでもらえるかが大事。そこがおもしろい。教育番組や紀行番組のディレクターを務めたこともあるんですが、そういうときは撮ってる対象から引きたいんですね、私。撮ってる人の感情があふれる時こそ、車が行き交う交差点の画とか、感情から距離を置いた映像を入れたいタイプ。でも、”恋リア”は情緒に情緒で突っ込むんですよ。もっと感動したい、もっとキュンキュンしたい、みたいな。なので、ドキュメンタリーよりドラマを見たほうが勉強になりましたね。

――恋愛リアリティーショーを巡っては世界的に見ても痛ましい事件が後を絶たないという側面もあります。

山内:たしかに、どうしてもキャストが叩かれやすくなっちゃうんですよね。そこは常に試行錯誤している部分です。放送時間が限られているので難しい場合もあるのですが、インタビューを多めにすることで自分の口から語る機会を増やし、なるべく勘違いされないよう、キャストが傷つかないよう配慮はしています。でも、最近はキャストの印象が悪くなる展開になると、編集へ批判が向くようになった気がします。それは良いことだと思っていて。さっきの話の中にもありましたけど、良くも悪くも編集で印象は変わるんです。なので、そこで編集に批判が向くということは、視聴者が“この映像がその人のすべてではない”とわかっている証なんじゃないですかね。見る人のリテラシーが上がってきているのでは、と感じます。

――最後に、制作者から見た“恋愛リアリティーショーの魅力”って何だと思いますか?

山内:恋愛リアリティーショーって「人を幸せにするコンテンツ」なんだと思います。エンターテインメントって必ずしも幸せな気持ちになるものだけじゃないじゃないですか。でも、”恋リア”は幸せな気持ちになるために見る。”恋リア”のキュンって現実のキュンとは違うんですよね。現実の恋愛で起こって欲しいことというよりは、もっと夢物語というか。そういう番組は地上波だと減っているし、(夢物語である”恋リア”を)好きって口にしづらい空気がある気もします。でも、潜在的には求められている部分でもある。だからこそ支持されていると思うので、その期待には応えたいですね。

放送学科
石毛 みさこ
日本大学芸術学部放送学科助教。1990年生まれ。朝ドラと配信を研究中。日々の生活の中で、ふと隣にあるエンタメが好き。趣味は埼玉西武ライオンズ。
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