日藝的キャリア教育の事例(日藝×サイバーエージェント) 学生記事 DAY2 ①

 日藝では、クリエイターを社会におくりだすべく企業と連携したキャリア教育が盛んに行われています。本記事では、芸術総合講座Ⅲ(コンテンツ・ビジネス実務)を紹介します。

 本講座は、芸術教養課程の加藤亮介准教授が、サイバーエージェントの方々と、長い時間、連携して作り上げられた授業です。

 潜入取材  2日目(1日目の記事はコチラ)、今回は「マンガの次の10年を妄想する」と言うことで、ハッシュタグにもマンガや編集がありますね。日芸には8学科ありますが、その中でも文芸学科がワクワクしそうな内容になっています。
 1日目で頭がパンクしていた学生も多いかと思いますが、最後まで駆け抜けていきましょう。

DAY2です。

本日も、まずは加藤先生、下山先生のオリエンテーションから始まりました。Abema君も壇上デビューしたようですね。

さて、今回も様々なご経歴をお持ちの登壇者の方々からお話を伺っていきます。

 サイバーエージェントで新しくリリースされるマンガコンテンツスタジオ「STUDIO ZOON」についてのお話です。私たち世代は馴染み深いWEBTOON(縦スクロール漫画)にて対する取り組みや、そこで活躍するプロデューサー、クリエーターの方々のお話です。

 芸術を学ぶ学生は、各学科で芸術を学びながらも、「どうやってその学びを『社会実装』するのか」またどのような場所で『自分が活躍』できるのか」を考える。つまり、自分の「夢を紡ぎ直していく」ような時間が必要です。
そういう意味で、自分の専門的な学びを深めるとともに、社会を念頭に「視野を広げる」ことがとても大事です。

 マンガ業界の第一線にいる皆さんの編集者であったり、クリエイターであったり、様々なご経歴からも「始まりは1つじゃない」という、言葉が出てきています。視野を広げていけそうな学びが得られますね。多くの人の協力により、作品は作られています。
 4年間の学びをどう活かしていけばいいのか?普段の授業とはまた違った緊張が走る中で、富塚さんから「WEBTOON」と「マンガ業界」そして、これからサイバーエージェントで行われる新規事業「STUDIO ZOON」についての紹介が始まりました。新しくWEBTOON事業に取り組まれるということで、「縦スクロール漫画は、スマートフォン・タブレットがあれば書籍が普及していなくても漫画を楽しむことができる」という、国内外関係なく読者層を獲得しにいく世界を見据えた大きなビジョンを語っていただき、驚かされ続けました。
 この場で話を聞いている学生達はコロナ禍により、日藝での学生生活のほとんどをオンラインで過ごしてきました。「大学生」としての自分や「クリエイター」としての自分が、思い描いた通りにならなくなった日常の中で、どうしても狭い視野になっていたと思います。上手く行かなかった日々の中で、わたしたちは葛藤し、社会に出ていく自分の姿を模索し続けています。それでも前を、世界を見据えている社会人の方々が純粋に夢を語ってくださっている姿に、多くの学生が心を動かされたのではないでしょうか?
 

日藝に入学すると芸術の授業だけではなく、実際に社会で活躍されている方々からキャリア形成のお話も伺う機会があります。

そして、学生が楽しみにしていたフリートークセッションの時間になりました。

 この授業では、Q&Aやライブ投票などの双方向コミュニケーションが取れるツール「slido」を活用した質疑応答が行われています。チャットベースのプライバシーが保たれた質問形式のため、いつでも気兼ねなく尋ねることができました。

 早速みなさんの質問を待ちながら先生方から詳しい自己紹介も兼ねて「今までどんなキャリアを歩んできたのか?」というお話が始まりました。

▶︎「登壇者のこれまでについて」

【村松先生】

 大学生の時に小説家や映画監督に憧れを持っていたけれど、クリエイターに自分はなれない感じがして、編集者になりたいと思いました。あ、slidoに質問が来てますね。「そこまで大学で何専攻してたんですか?」って書いてあるんですけど、僕は教育学部で国語教育のゼミにいて、特別なことは何もしていません。普通に就活をして、漫画編集者を頑張っていました。一通りやった時に、「このまま編集長になるのは面白くない。新しいことがやりたい」と思って、その中でも、WEBTOONが良いだろうと。

 昨日、ある編集者を「この授業に来ない?」って誘った時に、彼は「どれくらいの時間軸で見れるの?」って心配していたんです。

 それって実は当たり前のことで、コンテンツ事業って時間かかるんです。やり切るにはお金と覚悟がいるんですよ。お金だけあっても本気でやる気がなかったら、やめる理由が毎年訪れるんです。3回4回とタイミングが訪れたら、事業を縮小する話が出てきます。やり切るぞって覚悟がないとコンテンツ事業はできません。サイバーエージェントはその点、信頼できるなと思って飛び込みました。

【鍛治先生】

 話を聞いていて、「『#編集者』っていうタグあったんだ!」という感じでしたね。僕は小さい時から映画監督になりたくて、物語を作りたいと思っていました。クリエイターに僕自身がなるしかないって思ったんですよね。
 結局、父が漫画家だったこともあって、僕は漫画の道に進むことになりました。父に反対されていたので、23歳ぐらいで初めて絵を描き始めました。「本気で漫画家を目指すんだったら1年あげるから、出版社で賞を取るなり担当がつくっていうなら、もう1年あげる」っていう約束を父親としました。そこから漫画を描き始めて、賞を取って、そしていよいよ担当者さんがつく漫画家としてのキャリアが始まりました。
 カッコいい理由があったわけではなくて、次の連載が決まるまでの腰掛けみたいに最初思ってました。
 初めて学校以外の集団でモノを作ったり、一緒に進んだりしていく体験の中で、実際に自分が作家として描いてきて、世の中に配信してくれる人がいる……沢山の読者に届けてくれる努力をしてくれている……実際に自分がサイバーエージェントで裏側を体験して、最初は1年いないだろうと思っていたのに、6年ぐらいになって、毎日文化祭のような気持ちで毎日楽しくやらせてもらっています。

slidoでの質問と並行して口頭でも、色々な質問が上がりました。

「なぜWEBTOONを出版社でやることが難しいんですか?」

「WEBTOONがどう変化していくのか、サービスがどう対応していくか?」

「漫画作る時の課題感を教えてください」

「WEBTOONへの想いの乗せ方やアプローチについて何を考えていますか?」

こういった学生の素直な質問にも、正面から答えていただけました。

時間が許す限り、たくさんの真摯な質問が会場に飛び交っています。

その中で登壇者の先生から「ターゲティングやマーケティングの話をした後で、全く反対のことを言いますが、リボルバーに夢の弾丸を一つ入れておく」という話が出てきました。我々はこの日藝という環境で、日々その勉強をしています。自分たちの作品という弾丸が一発当たって、人気になって欲しい。裏を返すと、そのことだけを直向きに考えて、学んでいます。

改めてこの授業では、「ビジネスを知らないわたし達クリエイターの視点を広げる」ことがテーマになっており、キャリアはもっと広くて自由だからこそ「ビジネス全体を把握した上で、自分の将来を選択しよう」という目的があります。クリエイターだけがゴールではない、作品をどう魅力的にするかプロデュースしたり、多くの人々の手にとってもらえるようにマーケティングする人もいるのです。我々学生にも、そして、これから日藝を目指す方々にも、通ずるような素敵なアドバイスをいただきました。

「クリエイティブを支えているプロデュースの視点を持つ」

プロデュースする視点にも、クリエイターが活躍できる場面はたくさんあります。人気になるような面白いものを作るためには、「『自分が何を感じとっているか?』という感性を、相手にアプローチするテクニックが必要」なのだと教えていただき、また一つ視野が広がりました。
 「世の中の感性」と「自分だけの感性」の違和感を分析することで、まだ誰も知らない貴方だけの個性を見つけることができるはずです。

自分だけの特別な個性を世界中に届けるため、わたしたちは日藝を選び、学んでいるのです。

履修者への取材
この、3日間を終えてどうでしたか?

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デザイン学科 4年生 中臺亜里沙さん

この3日間の集中講座では、ビジネスを知らないクリエイターとしての自分が、これから作ることでどう社会に還元できるのかを見つめる貴重な機会となりました。

今回のお話の中で『創るは「求められるもの」≒「あてる」を考える時間』といった話は自分にとってとても印象的でした。

これまで「創る」ということは、アイデアを形にするため、手を動かしてものを制作する時間であると認識していました。

私はこれまでデザインを始める時、おぼろげな課題や「自分の作りたいもの」という動機でしか動けておらず、実際の受け手やユーザーへの意識が希薄だったのだと思います。
しかし、日藝では、学科の先生の指導の下、自分の作りたいデザインを作り続けたことも財産だと思っています。だからこそ、この授業での気付きが大きかったのだと思っています。

本授業では、社会では「作品」が「商品」になり得るための考え方やステップを学ぶことができました。また、価値観マンダラートでは顕著にこの授業を受ける前と受けた後の変化がわかりました。私は初日に1位の価値観に「成長」を選んでいましたが、最終日には「挑戦」へと変化しました。生活の中での気づきを蓄積してアウトプットし、フィードバックを受け取ること、それらは結果として「成長」を生みます。ただし「成長」の前提として「挑戦」が存在することを学びました。

来春から社会人デザイナーとして生き抜いていく中で今回の授業の学びを活かし、日々課題に挑戦していきたいと思います。

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ライター:文芸学科 小澤奈々子

フォト : 放送学科  坂本亮真

芸術教養課程
加藤亮介
日本大学芸術学部 芸術教養課程 准教授 博士(芸術学) グローバルメディア・国内メディア企業にて、コンテンツ・ビジネス業務に従事、 その後、研究者となる。日藝では、芸術論から産学連携まで幅広く担当。
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