映画学科のアニメーション

映画学科には、いくつかのアニメーションの授業があり、たくさんの卒業生がアニメ業界で活躍しています。この文章では、映画学科におけるアニメーションについてご紹介します。

まず、映像表現・理論コースでは、1年次に「動きを作る」という課題で、簡単なストップモーション・アニメーション制作に取り組みます。2年次以降に制作系を専攻しない学生にも、この課題を通して動きが生まれる原理を体験してもらうことが目的です。

過去に「動きを作る」課題で制作されたアニメーション。

2年生以上で制作を行う学生を対象とした実習授業「アニメーションⅠ・Ⅱ」は、2022年度からアニメーターの上妻晋作先生が担当してくださっています。映画学科は入試の時点でデッサンなど画力を測る試験がないため、学生たちの造形力はさまざまですが、そのような学生でも取り組める課題を設定し、動きについての理解を深めてもらいます。2021年度までは動画用紙に鉛筆で作画をしていましたが、今年度はRough Animatorというソフトを使ってデジタルでの実習を行っています。

テレビを見ている人たち中程度の精度で自動的に生成された説明
上妻先生の「アニメーションⅠ」授業風景。学生から提出された課題ムービーを再生しチェックしているところ。2022年度はハイブリッド授業として運行し、教室で受ける学生と自宅からオンラインで受講する学生がいる。
キッチンで作業をしている女性中程度の精度で自動的に生成された説明
「アニメーションⅠ」の授業でタブレット端末に作画する学生。

また、2年生向けには「映像メディア演習」と「映像メディア実習」というAfter Effectsを学ぶ授業が開講され、コンピュータのなかでアニメーションの画面を完成させる方法についても学びます。

3・4年次には、映像制作を専攻する学生は年間を通して1本の映像作品を制作しますが、そこでアニメーションを選択する学生がいます。2021年度の卒業研究で制作された22作品のうち、7作品がアニメーションでした。特任教授の片渕須直先生が3・4年次のゼミナールを担当されており、アニメーションを専攻する学生の研究・制作の指導を行っています。片渕先生は映像表現・理論コースの前身である映像コースの卒業生です。

学生が制作した作品は、毎年ICAF(インターカレッジ・アニメーション・フェスティバル)という上映会で発表していますので、機会があれば見てみてください。ICAFでは全国のアニメーションを制作している教育機関から作品が出品されますが、映画学科らしい特色があるのではないかと思います。

屋内, テーブル, 座る, 部屋 が含まれている画像自動的に生成された説明
2021年度卒業研究『蟹眼』:実写で撮影した映像を元に、背景を3DCG、キャラクターをロトスコープに置き換えて作成された作品。

2021年度卒業研究『Recollection』:人形をコマ撮りしたストップモーション・アニメーション。

ほかにも、アニメーションについて学ぶ講義があり、津堅信之先生の「アニメーション研究Ⅰ・Ⅱ」ではアニメーションの歴史を、横田正夫先生の「映画特講」では心理学のアプローチでアニメーション作品を分析する方法を学ぶことができます(横田先生も映画学科卒です)。心理学については野村康治先生の「映像心理学」という授業も開講されています。(2022年度)

映像専攻の学生だけではなく、理論・批評専攻の学生がアニメーション作家の研究を卒業論文のテーマにすることや、シナリオ専攻の学生がアニメーションの長編シナリオを卒業制作として書くこともあります。

卒業後にアニメ業界を志す学生も多く、毎年何人かの学生がアニメーション制作会社に就職していきます。片渕先生をはじめ監督として活躍されている方も多いですが、アニメーターやシナリオライター、撮影、編集、プロデューサーなどさまざまな領域で活躍しています。

過去に遡ると、映画学科で初めてアニメーションとして制作された卒業制作は、1961年の岡本忠成さんによる人形アニメーションだといいます。岡本さんは、アニメーション作家として多彩な作品を残され、2021年にも「アニメーションの神様、その美しき世界」という特集上映でデジタル修復版が劇場公開されました。岡本さんの在学当時は映画学科でアニメーションを通年で教える授業はありませんでしたが、近い時期には池田宏監督、富野由悠季監督も在籍されています。

池田監督は、高畑勲監督と同期で東映動画に入社、『空飛ぶゆうれい船』(1969)や『どうぶつ宝島』(1971)を監督されますが、1971年から映画学科でアニメーションの講座を担当されます。映画学科でアニメーションが学べる通年の科目が開講されたのは、この年が最初だったようです。実技の授業は、1979年からアニメーション作家の月岡貞夫先生によって開始されます。1995年から2010年まで、高畑先生も授業を担当してくださいました。

池田先生と月岡先生は長年にわたり映画学科でアニメーションを教えてくださり、2015年にお二人の最終講義を行った際は、たくさんの卒業生が集まりました。

映画学科にはアニメーションを専門とするコースはありませんが、このようにすばらしい講師に支えられ、卒業生を送り出している伝統があります。

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「アニメーションⅠ」の授業で上妻先生から講評を受ける学生。

映画学科
野村 建太
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