ライトノベル作家を続々輩出する文芸学科の指導法とは?

2022年『スター・シェイカー』でハヤカワSFコンテスト大賞、『きみは雪をみることができない』でメディアワークス文庫賞を獲り、ダブル受賞デビューを果たした人間六度さん。同年『完璧な佐古さんは僕みたいになりたい』でファンタジア大賞銀賞を受賞してデビューした山賀塩太郎さん。2020年『サンタクロースを殺した。そして、キスをした』で小学館ライトノベル大賞優秀賞を受賞してデビューした犬君雀さん――いずれも近年、「在学中デビュー」を飾った文芸学科生である。彼らが所属していた文芸学科・青木ゼミの担当教授にラノベ作家への近道をうかがってみた。

たった2つのルールが作家デビューへの道を照らす

――毎年のようにライトノベル新人賞受賞を出す青木ゼミですが、その指導法になにか特別なものがあるのでしょうか?

近年僕の創作ゼミからデビューする学生がどんどん現れてうれしい限りですが、僕の教え方が特別なわけではなく、ゼミの場でライバルの作品が共有され、常に読みあえる文芸学科の環境が、彼らを刺激し、よりおもしろい作品執筆へとモチベーションをかき立てるのだと思います。

――とは言え、ゼミの先生が何らかのヒントを与えているわけですよね?

僕は授業で「そのキャラクターから見えるもの以外書くな」と「説明するな。具体的に描写しろ」しか言ってないような気がします(笑)でも、この2点は非常に重要なポイントで、このシンプルなルールの〝真髄〟に気づいた学生が、デビューを飾っているとも言えます。
 
――そこをもっと具体的に教えてください。

そうですね「具体的に描写しろ」と言った手前、僕もそこを語らなくてはなりませんね(笑)まず、ライトノベルを「アニメ調の絵がついたティーンズ向けの小説」とあなどってはいけません。しかし〝絵がついている〟ことも無視できないポイントで、表紙絵や口絵によって、読者の主人公像・ヒロイン像を固定できるという利点があります。そしてこの利点に甘えすぎてしまうと、主人公やヒロインのキャラクターが薄くなるという罠に、無自覚にハマっている書き手が多い。プロであってもです。

ラノベに限った話ではありませんが、そのジャンルが抱えている欠点を、そのジャンルの特徴だと勘違いするのはよくあることで、「絵があるから絵でわかることは書き込まなくてもいい」という姿勢で書かれたものが「ライトノベルの文体」なのだと誤解している書き手・読み手がたくさんいるように感じます。

ですから、少なくともそういう誤解の下にジャンルを再生産している有象無象のライバルを圧倒できるような武器を、僕の担当する学生たちには授けたいと思っています。新たにラノベを書きたいと思う学生たちは、当然のように挿絵のついていない作品で新人賞に挑戦するのですから、一度ラノベの利点を捨てて小説の基本を確認する必要があります。

「そのキャラクターから見えるもの以外書くな」
 というルールですが、一見あたりまえのようで、できていない書き手が多いんですよ。作者は作品世界の設定をすべてわかったうえで書いている神様なので、登場人物の一人から見えている世界というものに鈍感になっていることが多々あります。

――そうなると、どうなりますか?

読者が小説のなかに「作者の存在」や「作者の作為」を感じてしまいます。それはエンタメ小説にとっていちばん必要のないものです。読者は登場人物に寄り添う視点で物語を体験していく。それは今リアルタイムで書き綴られつつあるもので、まだ先でどうなるか見えないものだと感じさせるべきです。すでにでき上がっている予定表をなぞらされていると思われたらオシマイなんです。

書くべきものがなくても小説が書けるメソッド

まったくノーアイデアからキャラクターという「人間」を生み出したって、僕はかまわないと思ってます。作家になりたいけど、自分のなかにネタがない。特別な人生経験もない。という人であっても小説世界を作るメソッドはあって、これはミステリ作家の松岡圭祐さんも勧めている方法ですが、適当に自分の好きなキャラクターの絵を7枚くらい印刷して壁に貼り、その「見た目だけ」を利用して、その人物がどんな人物かを自分勝手に書き加えていく方法です。この方法には重要な縛りが一つあります。最初から彼ら7人の関係性やストーリーを絶対に考えないということです。あくまでも一人ひとりを考えていく。  

 ストーリーやプロットが最初にできていなければ物語は書けないのでは?という思い込みにとらわれている人ほど、じつは隠れた才能を秘めているかもしれません。このメソッドはそんな才能を発見する試験紙にもなります。

 人物一人ひとりの解像度を上げていくと、自然と「この人とこの人が、こんなシチュエーションで一緒にいたら、こんな会話が生まれるかも?」という発想が浮かんだりするのです。それをどんどん転がしていけるセンスがあれば、自然と読者がキャラクターに寄り添える小説が書けます。ストーリーやアイデアで勝負!と思い込んでいるライバルに、ここで差がつけられます。
 
――自分に書くべきことがない、という人でも小説が書けるかもしれないと?

はい。才能って、自分で気づくより他人にみつけてもらったほうが伸びたりしますし…そして、もし運良く作家デビューするとつきあうことになる「編集者」というのは、その作家が自覚している以上のポテンシャルを見いだして無茶振りしてくる生き物なので、イヤでも何か引きずり出されますよ(笑)。

――最後に、将来文芸学科で教わることになるかもしれない高校生・中学生へメッセージを

小説でも漫画でもアニメでも映画でもゲームでも何でもいいので、とにかく好きな「つくりもの」をたくさん楽しんでください。ちょっとではなく、たくさんです。どうしたらああいうものが作れるんだろう?と思い始めたら、その先に芸術を学べる大学があるかもしれません。そのときはお待ちしております!

「文芸創作論」オンライン授業でメソッドを実演する青木教授
文芸学科
青木 敬士(あおき けいし)
日本大学芸術学部文芸学科教授。1970年生。文芸学科での専門は文芸創作だが、キャラクターを低コストで空間投影できる「アミッドスクリーン」を開発し、第1回ニコニコ学会βでクウジット賞を受賞。ボーカロイド界隈では「アミッドP」の名で知られている。『鉄道模型趣味』誌(2021年8,10,11月号)に自作ジオラマが掲載されたり、専門分野外に脱線しがち。著書に『SF小説論講義』(江古田文学会)など。
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