本学部デザイン学科の若原先生がRASIKのインタビューを受けました。「建築」を総合芸術として捉える先生のインタビュー内容を紹介します!‍

映画を学ぶために入った大学で建築と出会う

独立して一番最初に設計した住宅「あがり屋敷の家」(2000年)  小さな家の原型 写真@中村絵

―本日はよろしくお願いいたします。まずは建築を学び始めたきっかけについて教えてください。

若原:実は、大学に入学したときから建築をやろうと思っていたわけではなく、当時は映画の仕事をするために立体の勉強をしようと思っていました。しかし、いざ美術学科住空間デザインコース(現在はデザイン学科建築デザインコース)に入ってみたら、先生がほとんど建築家だったんです。

また、当時設計事務所でアルバイトをしていた影響もあります。そこで出会った人から、「建築は映画と同じで総合芸術だ」と言われたのが大きなきっかけかもしれません。建築はひとりの力で作るのではなく、さまざまな人が関わって作品を作るところが、映画と同じでとても魅力だと感じました。

―実際に建築が総合芸術だと感じた瞬間はありますか?

若原:最初に勤めた事務所の先生は、生活に関わるものすべてをデザインされていました。建築だけではなくて、テーブルや照明、カーペットの柄も先生がデザインしていたんです。レバーハンドルやドアのつまみとか、そういうのもデザインする事務所だったのでまさに総合芸術だと感じました。

「快適に暮らす」という視点で家にアプローチする

兵庫県神戸市で設計した「岡本の小住宅」(2021年) 家族四人が暮らす立体小住宅 写真@中村絵

―若原さんが実際に設計された住宅を拝見すると、小さな家が多いのが印象的です。小さな間取りを広く見せる工夫などはあるのでしょうか。

若原:「小さな家を建てる」という本を出したこともあり、小さい家の仕事は多いですね。そういう切り口で本を出したので、反響があったのかもしれません。だからといって小さい家を推奨しているわけでもなく、広く見せる工夫を意識しているわけでもないんです。

「快適に暮らしていく方法はどういうことなのか?」という点からいつもアプローチしています。

結果的に多くなっていたのが、なるべくがらんとした空間を持つ住宅です。あまり間仕切らないように、立体的なワンルームのような意識で設計していくことが多いです。

外の風景を意識しながら内部のインテリアを考える

「小金井の住宅」(2022年) 窓が外の風景を切り取る。 写真@中村絵

―家の設計と合わせてインテリアを考える際、意識されていることはありますか?

若原:インテリアを単体で考えると家の内と外が別れてしまうので、それは避けるようにしています。

たとえば部屋の外に木があれば、その木に向けて窓を作り、その窓をふまえてインテリアを考える。部屋に合った窓を作ると、そこに居場所ができるんです。居場所ができると空間が見えやすくなり、そこに置く家具の大きさも決まっていきます。

インテリアはどうしても建築の内部だけで考えがちですが、住まいは「内と外との関係性」が大事です。外も意識しながら、内も考えるのが重要ですね。

―生活は家のなかだけで完結するものではないということですね。

若原:そうですね。外の風景もそうだし、光とか風をどう取り込むかも大切です。

光は単に部屋を明るくするためではなく、インテリアの要素の一部として考えています。「光による居場所作り」をテーマにしているので、窓とインテリアが密接に関わってくる。だからこそ、外とどうやって関わっていくかがとても重要ですね。

住んでいる人が主役になるように家を設計する

「小金井の住宅」(2022年) 美しい光が生活を彩る。 写真@中村絵

―そのほかに、設計の際にこだわられていることはありますか?

若原:インテリア選びにも通じる話ですが、「建築は生活の背景」なので、住んでいる人にはだんだんと当たり前の一部になっていきます。

住みはじめたころは「すごい、こういうところに住めるんだ。嬉しい」と感じていても、2~3年してくると「え、我が家ですけど何か?」みたいな(笑)。

―慣れるとなりますね(笑)。

若原:なりますよね。ですが私は、家はそういう風に「背景」になったほうがいいと思っています。当たり前に入ってくる朝日や風の変化、朝夜のライティングの変化とかが用意されていて、それがいつの間にか当たり前の存在になるように意識する。建築が主張しすぎないようにしています。

家を設計する際に、あくまでも主役は住んでいる「人」です。その人の生活がメインで、その背景に家具や植栽、建築があります。生活や家具の後ろに建築があるイメージなので、主張の強い素材はメインには使わないようにしています。

「北石切の家」(2022年) おおらかな空間に配置された家具によって居場所が生まれる 写真@中村絵

―建築が背景になりづらくなってしまうということですね。

若原:建築が前に出てくると、建築より主張が強い家具を使わなければいけなくなります。そうすると、生活が「前のめり」になってしまう。

その人の生活がアグレッシブなら生活に合わせた強い素材を使わないといけません。でも、私のクライアントは静かに暮らしたい方が多いので、主張しすぎない材料を選んでいます。

床だったら無垢の木。壁だったら漆喰かペンキで仕上げていく。あとは多くの素材を使わない。タイルをちょっと張る程度ですね。

シンプルなレイアウトを作る際は「自分がどうしたいか」を意識してみてほしい

「岡本の小住宅」(2021年) 三階はフリースペース。現在は子どもの居場所。 写真@中村絵

―シンプルな家や洗練されたレイアウトを作るポイントはありますか?

若原:生活とは、自分がどうしたいのかが大切だと思います。悩んだ際は、自分らしさにインテリアを合わせるのがいいんじゃないでしょうか。

「本を読むのが好き」「パソコンで作業する時間が長い」「絵を描く時間が重要」とか、自分のライフスタイルに素直になる気持ちでインテリアを選ぶ。自分の暮らしを優先して考えた方がいいと思いますね。

考えた結果、人によってはベッドが邪魔になることもあるかもしれません。そうしたら布団を敷くレイアウトにする。インテリア的には見栄えが良くないかもしれないけど、カッコ悪いとは思いません。その人らしい空間ですから。個性が見える暮らしが大事だと思います。

仕事道具と悩み事

―若原さんの使用している家具や道具で、こだわりの物を挙げるとしたらなにかありますか?

若原:日常的にスケッチを描くので、いつもペンケースを持ち歩いています。クライアントの家具を調査する際も、寸法のメモと一緒にスケッチするためです。

また、自宅の仕事場では、すごく小さなテーブルを使っています。パソコンが1個置けて、ちょっとスケッチができる程度の大きさです。原稿を書くこともあるので、そのためのスペースは用意しています。

―短い鉛筆がいくつかあるのですが、それを使うのもこだわりですか?

若原:そうですね。スケッチを描いて丸くなるたびにカッターで削っているので、よく使う色ほど短くなっています。カッターのほうがコンパクトに使えるので、鉛筆削りを使わないのもこだわりです。

私の仕事は出張が多いので、飛行機に乗るときにカッターを持ち込めないのが悩みなんです。

いつも朝にペンケースからカッターを抜かなきゃと思うのですが、つい入れたままにして検査で取り上げられてしまい、結局現地でまた買わなきゃいけなくなっています(笑)。

手書きだからこそ表現できるものがある

―スケッチ作業は、手書きとデジタルでは違いがありますか?

若原:現在の3DシミュレーターやVR技術はとてもよくできていて、完成形が見えやすいと思います。しかし、身体的な部分、肉体の感覚や距離感が見えにくいです。

また素材の話で言えば、無垢の床は足触りが独特です。硬い木は少しヒンヤリし、杉などの柔らかい木は温かかったりします。

そのような身体感覚を表現するのは、デジタルよりもスケッチの方が合っていると思います。硬い木はなんとなく硬いなと思って硬さをイメージして描き、柔らかさを表現したい際はふわっとしたタッチで描いていきます。

その人や生活を空間で表現しようとすると、見た目のデザインよりも素材の質感や時間で変化していく光の入り方とかを意識したいです。そういった点は手書きだからこそイメージしきれる気がします。

『手書きのスケッチ』

「井の頭の住宅」(2023年) 単身者の小さな住まい。小さな空間にたくさんの居場所をつくる。

―手書きだからこその良さですね

若原:その人の住まいでのイメージを空間で表現していくには手書きの方がいいと思います。あくまでも最終的な目標は本物の空間を作ることなので、デジタルは通過点でしかないです。通過点であたかも本物ができている必要はないと感じています。

私の仕事は、バーチャルの空間のなかだけで完結するゲームだとかそういう仮想空間を作る仕事ではなくて、現実の住まいを作る仕事です。現実を作る仕事の通過点が現実的である必要はないのです。

建築士は「日常の幸せに立ち会える仕事」

―最後に、建築業界を目指す学生にメッセージやアドバイスをお願いします。

若原:住宅とか生活に関わるものを作る仕事は、「人生の幸せな瞬間」に関わることが多いです。

ウェディングプランナーみたいに特別な日を演出する仕事もありますが、そういう特別さとは違う、日常の幸せに立ち会えるすごくありがたい仕事だと思います。

「これから結婚します」「子どもができます」という場面に立ち会えるのは本当に幸せなことです。

―家を買うことは「一生モノの買い物」ですしね。

若原:大きな買い物です。これからの時代、家を建てるのもなかなか難しくなっていきます。いろんな意味で難しくなってくるとは思うのですが、身の回りを自分らしく設(しつら)えていくのは大事なこと。私はそういう「文化をつくる仕事をしている」喜びを実感しています。

―素敵なメッセージありがとうございます。本日はお時間をいただきありがとうございました。

若原教授インタビュー記事(https://rasik.style/blogs/bed/506

RASIK公式ストア(https://rasik.style

公式ブログ:RASIK LIFE(https://rasik.style/blogs/bed

デザイン学科
若原一貴
一級建築士。1971年東京生まれ。1994年に日本大学藝術学部を卒業。2000年に若原アトリエを設立。 著書『小さな家を建てる。 豊かな住まいをつくる60のヒント』(エクスナレッジ)。
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