声は、身体より先に届き、あなたのことを隅から隅まで伝えてくれる。
声はあたたかく、声はつめたく、声は強く、声は弱く、声は速く、声は遅く、声は広く、声は狭く、声は堅く、声は柔らかく、声はもどかしく、声は果てしない。
声は、あなたそのもの。
あなたの生きてきた足跡がすべて声に乗り、あなたを世界へ運んでくれる声。
声優の仕事は、マイクに向かって声を収録することではない。
声優の仕事は、産むこと。これに尽きる。
物言わぬアニメーションのキャラクターが、外国語をしゃべる異国の映画俳優が、あなたの声によって新たに生命を吹き込まれる。そのとき、初めて、生まれる。
そうして産まれた人物は、動き出し、羽ばたき、どこか知らない人のもとへ届いていく。あなたの人生と誰かの人生が声でつながり、ネットワークが世界を包んでいく。
あなたにも、そのキャラクターにも、その動物にも、その風景にも人生がある。
よろこびもあれば苦しみもある。葛藤もあれば対立もある。目的もあれば障害もある。
声優の仕事は、自分の人生を生き、誰かの人生をまるごと引き受けることなんだ。
大きな声、高い声、美しい声、よく通る声…いろんな声を出せる人はいるけど、他の誰にもあなたの声は出せない。声は生身。声優はナマミの俳優だからね。
演技は誰かになることではなく、自分を知ることから始まる。自分の知らない自分をみつけ、自分という他者と出会う。演技の授業を受ければ受けるほど、ますます自分というものが深くなっていく。それは、時に怖いこと。そして、その怖さを受け入れること。
声は腹から出す?
いや、ちがう。
声は、あなた自身から出すんだよ。
関連授業:演技演習・演技実習Ⅰ
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