写真学科におけるオタクの生態

2020年度芸術学部長賞「煌跡」栗原 朗

写真学科にはさまざまなオタクが棲息しているが、そのうちの代表的な例をご紹介

 そもそも日藝自体が(教員も含めw)ある種のオタクの巣窟である、と言えないこともない。アイドルオタクやコスプレオタクなど、その実態は入学してからご確認いただくとして、ここでは写真学科における「写真学科的」オタクの生態を幾つかご紹介したい。
 写真学科におけるオタクの代表格といえば、まず「乗り物オタク」である。最も多い棲息数を誇るのは「撮り鉄」とよばれる鉄道写真オタクであるが、そのほかにも飛行機、バス、船、自動車レース、自転車など、ありとあらゆる乗り物を撮影するために日本全国は当たり前、卒業制作のために中国の奥地に赴いて現地に残る蒸気機関車を撮影した例もある。彼(女)ら(多くが男性であるが、たまに女性もいる)の多くは入学以前からこの種の撮影を続けており、大学生になっても撮影を続けるための合法的な身分を手に入れるために写真学科に入学したと考えられる節がある。多くは入学後すぐに正体が判明するが、活発な活動を見せ始めるのは3年次の写真基礎演習Ⅲ以降である。卒業後はその撮影テクニックを生かして報道分野に進んだりする例が多いが、中にはそのまま鉄道写真家になってしまった者も存在している。
 次にご紹介するのが「暗室オタク」である。別名「フィルムオタク」とも称されるが、彼(女)らは、このデジタル全盛の世の中においても頑なに世の風潮に背を向け、ひたすら一人で暗室にこもって、学校では授業以外は暗室にいるという輩もいるほどである。
 写真学科では1年生で写真技術Ⅰという黒白フィルムの入門的な実習が選択できるが、2年次以降も写真技術Ⅱ(ファインプリント)で大型のカメラを使ったり、写真技術Ⅲ(特殊技法)で19世紀の古典的な技法による写真制作を行うなどの暗室オタク養成授業が次々と待ち構えている。そして最後には古典技法を専門とするゼミナールで、デジタルで撮影したデータからわざわざネガを作り、19世紀の古典技法でプリントして卒業制作にするという倒錯した作品制作をする者も少なくない。
 このようにさまざまなオタクの棲息が観察されている写真学科には、このほかにもスタジオで商品撮影を行う「ブツ撮りオタク」やコスプレ撮影を行う「カメコ」など、さまざまな亜種の存在が確認されている。

関連する授業:写真基礎演習Ⅲ、写真技術Ⅰ、写真技術Ⅱ、写真技術Ⅲ、ゼミナール

2020年度金丸重嶺賞「最速を求めて」窪田 有希
©新田龍一
2021年度芸術学部長賞「みなもと」鬼原 愛佳
写真学科
佐藤 英裕
"佐藤 英裕 (さとう ひでひろ)日本大学芸術学部教授。専門は現代写真・写真理論。具体的には主に近・現代作品を対象とした、受容の側面からの写真という表現形式の考察、及びその実践としての創作活動。日本写真芸術学会理事・学会誌編集委員。"
OTHER TAGS