先生になりたい

 私は先生になるためには、演技訓練が必要だと考えています。それは、まず、先生も呼吸や発声訓練をしっかりやるべきだということではありません。もちろんこれらの技術習得も必要ですが、そこには学びの順番があります。

 私が1年生の授業で最初に扱うのは、他者との関係を構築していく“からだ”です。俳優からの他者は相手役や観客ということになるし、先生の場合は生徒たちということになるでしょう。関係を構築していくというのは、まず、相手を存在させる“からだ”を用意することです。つまり、情報の発信よりも、他者を受信する状態が求められるのです。とかく私たち教員や俳優は、覚えた情報を伝えること懸命になってしまいます。このような情報過多の前のめりになった“からだ”を、子どもたちや観客は受け入れてくれるでしょうか。そこでは自分が話すということよりも、相手が話したくなるようなからだを用意する必要があるのではないでしょうか。

 よく受験相談で「演技コースの面接でいい評価を受ける人はどんな人ですか?」と聞かれます。そんなときは「試験官にしゃべらせてくれる人」と答えます。俳優には自分の言いたいこと(覚えた台詞)を話すよりも、他者を受け入れる(相手の台詞を聞く)ほうが重要だからです。もちろん先生にも同じことが言えるでしょう。“言いたいこと”を話す人に限って、重心が高く、聴覚が使えません。他者を拒絶する“からだ”になってしまいます。

 演技の学びは、関係の中から自らを自覚していくところから始まるのです。それは間違いなく先生にも必要なことです。                        

【演技演習】

演劇学科
藤崎周平
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