何か「お笑い」と聞くと舞台芸術や演劇よりどこか安易なものにとらえてしまう人もいるかもしれませんが、「笑い」の文化とは、日本人にとって最も舞台芸術に求められる重要な要素なのです。

例えば「能楽」では「白式尉(翁)」の面がありますが、そのお顔は笑っていて、まさに「笑う門には福来る」を体現しますが、太古より私たち日本人は、「笑う」ことを演じることで、生きることを豊かにしてきました。それは、太古ではわが国の神楽の始まり「古事記」に書かれた天岩屋戸のシーンでも神々は笑ったことで国が明るくなったと記されているほどです。この「笑い」は生命の源を元気にするキーワードであり、また伝統的に私たち舞台で活躍する日本の芸能者の大きな目的でもありました。

また、「笑い」の文化には、人を笑顔にし、そして幸福にするという意味があり、中世、室町時代の世阿弥もそうした「笑い」の重要性を解いています。また、狂言はまさに私たち日本人の豊な笑いそのものを表現した芸能です。

さて、「笑い」といえば、古典落語を思い出す方もいるかもしれません。「落語」の始まりは、16世紀から17世紀にかけて、仏の教えをわかりやすくするために一人のお坊さんが説教として始めたもので、京都の安楽庵策伝というお坊さんがその人。落語自体は江戸時代以降に本格的な芸能へと発展していきますが、そこにはやはり私たちの営みを描いた「笑い」を通した人の生きる道が解かれています。

いわば落語も話芸を通したセリフ劇の一つとも考えられますし、話芸と正座したままでアクションする、いわば一人芝居とも言える優れた日本の演劇とも考えることもできます。

また、昨今では、落語以外にも漫才やコントなど、「笑い」を通した私たちの生活にゆとりを提供してくれる多種多様なお笑いがあふれています。

こうした過去から現代、そして未来へと続く「笑い」の歴史は、私たち日本人の心のよりどころでもあり、演劇で培った表現力は、こうした「お笑い」の表現力にも繋がっているのです。昨今の演劇学科出身者には爆笑問題やテツ&トモ、立川志らくをはじめ、多くの著名人が活躍していますが、どの方も、領域を固定せず多様な芸術の観点から、自分の感性を磨かれた方たちばかりです。

「笑い」は人を幸福にするもの、まさに私たち舞台芸術が目指す目標の一つであり、「お笑い」を目指す人もたくさん在籍して、夢を目指して頑張っています。

演劇学科
小林 直弥
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