2.5次元演劇を観るあなたへ

『ミュージカル ヘタリア〜The world is wonderful〜』舞台写真

昨今日本の演劇界では、漫画やアニメ、ゲームなどを原作としたいわゆる2.5次元演劇というものが勢いを見せていますね。
かくいう私もその潮流に乗って、ミュージカル『ヘタリア』や『MANKAI STAGE A3!』、『家庭教師ヒットマンREBORN』などいくつものシリーズで舞台美術デザインを手がけています。
漫画・アニメ原作の2.5次元演劇と、それ以外の演劇に違いはあるのでしょうか? あるとしたら、その違いは今の演劇界に何をもたらしているのでしょうか?

実を言うと、洋の東西を問わず、「漫画、アニメ原作の演劇」の上演は特段珍しいものではありません。
宝塚歌劇団の大ヒットミュージカル『ベルサイユのばら』(1974年初演)、ディズニーが手がけたブロードウェイミュージカル『美女と野獣』(1994年初演)など、
実は漫画・アニメ原作とミュージカルの相性の良さは、昔からよく知られた関係なのです。
しかし、これらの演劇と今盛り上がりを見せている2.5次元演劇は、どうやら同じジャンルとは見なされていません。
同じモノたちを原作としているのに、なんだか不思議な気持ちがしますね。

この不思議な感覚を創作現場で得る実感で分析していくと、「キャラクターに求める再現の解像度の違い」なのかな、という仮説に行きつきました。
2.5次元演劇のキャラクターは、髪色、身長、瞳の色、立ち居振る舞い、風変わりな話し方のくせまで、原作の情報から忠実に再現されます。
演出家ジュリー・テイモアが『ライオンキング』で、獣型の仮面を俳優の身体から乖離させたような「新たな解釈による表現」は求められず、
「忠実な再現=それそのものの立体化」こそが至上命題、だったりするのです。

ARTの起こりは、自然物を人の力で模倣・再現することでしたが、2.5次元演劇はもしかするとこのARTが辿った道を逆行せんとしているのかもしれません。
「ART=人工物」を実在に戻す作業、とも言えそうですね。何のために? きっとその道で大切にされているのは、観客の笑顔と満足です。
どうやらこの辺りにARTとENTERTAINMENTの違いを明解するヒントが転がっていそうですが、今日はこの辺で。

さて、日本で生まれたこの少し変わった演劇は、しかしながら多くの観客から支持を得て、いまや日本の若者にとって演劇の入り口ともなっています。
これまでの演劇のカタチとはいくつかの違った部分があるとしても、このムーブメントは歓迎されるべきものでしょう。
「劇場に人が集まる」という状況は何ものにも代えがたく、演劇文化にとって最も根源的で、最も大切にされるべきことです。

私もいち作り手として、演劇のおもしろさ、演劇でしか成し得ない表現を求め続けて、これからの2.5次元演劇が退屈なキャラクターショーに成り下がらないよう、奮闘し続けます。
そして観客としてのあなたには、「演劇に対する厳しい目線」をどうか家に忘れずに、劇場へ足を運んでいただけたらと願います。
観客の目線が作品を、演劇を育てる。これもまた、演劇文化にとって代えがたく、大切なことのひとつなのです。

演劇学科
青木 拓也
OTHER TAGS