劇伴音楽の作曲

筆者の担当した劇音楽の楽譜や台本とCD/DVD

映画、演劇、ドラマやアニメなどで使われる音楽

映画、演劇、テレビドラマやアニメなどの中で使われる音楽を「劇伴」と呼びます。
業界用語的な言葉で、語源的には、劇の中の伴奏の音楽という意味だったのでしょう。
映画や演劇などにはありとあらゆるシーンがあり得るわけですから、劇伴を上手に作ってゆくためには高度な作曲の技術と豊かな音楽性が必要です。
大学で作曲を専攻すると、多様なことを半ば強制的に(!?)学びますから、将来、劇伴の作曲家になりたいなら、大学で作曲を学ぶことにはかなり効率が良い側面があります。
実際、音楽大学出身の劇伴の作曲家はけっこうたくさんいます。

劇伴の世界でも、近年は、シンセ音源(ソフトシンセ音源、DTM音源などと呼ぶ人もいます)を用いて作られているものもかなり多いようですが、
注意深く聴いていると、生楽器で演奏されている音源もまだまだたくさんあることに気づきます。シンセ音源と生楽器を混ぜて作る場合もあります。
もし、本格的なオーケストラを使った響きを作りたいなら、学ぶべきことは実にたくさんありますし、音楽に関する総合的な知識や楽譜を正確に書く能力も必須です。
仮に打ち込みですべてシンセ音源で作るにしても、クラシック音楽のオーケストレーションの知識は絶対に役立ちます。
将来、そういう作曲家を目指したいなら、大学での勉強で得られるものはとても多いと言えるでしょう。
作曲の専門家である私から見て、打ち込みで作られている音源でも、大学で学ぶような「クラシック音楽の基礎」をきちんと踏まえて作られているものは聴いていて安定感があります。
音楽に限らず、ものを作るには技術が必要で、そこがしっかりしているからなのです。

私が学生時代に教えを受けた作曲の師の中に、劇伴をとてもたくさん作曲してきている先生がいます。
修行時代、私は、その先生の劇伴の仕事の現場を毎週のように見学し勉強していた時期があります。

ある劇伴の仕事を引き受けることが決まると、プロデューサーやディレクターなどとの打ち合せがあり、台本をもとに、どこにどのくらいの長さの音楽を入れてゆくかなどを決めたりします。
先方が考えているざっくりした音楽のイメージを伝えられることもあるかもしれません。
その後しばらく作曲する時間が与えられますが、だいたいの場合、けっこうギリギリの時間しかありません。
音楽を映像に乗せる作業はいつも制作の最後のほうだということや、作品の公開日が迫っているなどということが絡み、かなり厳しいスケジュールで作曲しなければならないことがよく起こります。
与えられた時間内に、一定水準以上の質の音楽を必ず書き上げ提供する、そこには職人的な高い技術がいるわけです。
作曲家は録音の現場にも必ず立ち会います。
録音エンジニアのいる音響調整卓のところでプロデューサーやディレクターたちと一緒に聴きさまざまなことを相談し必要に応じて自らいろいろと注文を出すタイプの作曲家と、実際に自分の指揮で参加する作曲家とがいますが、指揮は専門の人にまかせる作曲家が最近は多いようです。

近年は、作曲家が最終的に納品するものが、打ち込みで作られたデータ音源というケースも多くなっています。
その場合はパート譜を作る作業や、録音の現場に立ち会う作業はなくなるわけです。
また、時には楽譜を書く作業はしないでDAWソフト上で曲を完成させたりすることもあるわけですが、
すべての作業を一人で完結させなければならず、このやり方でハイクオリティのものを作るほうが簡単ということでもありません。
PCやソフトにデフォルトで付いてくる音源などはデモ音源を作るくらいなら使えるかもしれませんが(大きなプロジェクトだと演奏家を集めた録音の前に、デモ音源の提出を求められることもあり、そこでプロデューサーやディレクターからさまざまな注文がつき、曲の変更を求められることもあります)、映像や演劇の中でそのまま使われる納品用の音源作成にはまったく不十分なわけで、打ち込みで作りながらもなるべく生楽器っぽい質感を出すために作曲家たちはさまざまなテクニックを駆使しています。

日藝音楽学科、作曲コースでは「自分の一番好きな音楽を最高のクオリティで書けるようになろう!!」ということをモットーにしています。
授業の中でもテクノロジーを積極的に用いた作曲を推奨していますし、映画学科の学生たちと授業の中でコラボしながら一緒に作品を作っていく授業もあります。
また、求めるならば、授業外で、映画だけでなく他のさまざまな学科の学生たちと作品を共同で作り上げる機会を日常の学生生活の中でみつけることも可能です。
それらを通して、私が修行時代に苦労しながら学校の外で体験したのに似たようなことが「学内で」体験できるわけです。
もしそこで、気の合う仲間がみつかれば、それはもしかすると卒業後も続いてゆく共同作業になるかもしれません。

音楽学科
伊藤 弘之
日本大学芸術学部 音楽学科 教授
OTHER TAGS