ミュージックビデオの原点:ナム・ジュン・パイクを知っていますか?

ドイツ・フランクフルトのコミュニケーション美術館にあるテレビ彫刻『Pre-Bell-Man』

 皆さんはYouTubeで好きなアーティストやアイドルのミュージックビデオを観ると思います。今では当たり前の日常ですが、たとえばアメリカでMTVという番組が始まったのは1981年で、それまではミュージシャンの演奏している様子を記録するだけの映像がほとんどでした。今では映像ディレクターという言葉も普通になって、日藝出身者も大勢活躍しています。
 さて、音楽と映像の出合いを単なるプロモーションではなく、それぞれが響き合う独自の表現とするその原点に、ビデオアートの父と呼ばれた韓国出身のナム・ジュン・パイクがいます。彼は1950年代に東京大学文学部美学・美術史学科を卒業後、ドイツに渡り現代音楽の巨匠であるジョン・ケージに出会います。ケージは音楽を「音の組織化」と言い換えることで、音楽の拡張を試みましたが、パイクはその拡張を当時の先端技術であったビデオを使うことで、領域にとらわれない多様で自由な表現を目指したのです。
 また、パイクは1974年にロックフェラー財団の研究員として『エレクトロニック・スーパーハイウェイ』を構想しました。これはメディアの進歩が国家や民族の壁を越えて、グローバルなコミュニケーションを可能にすると予言したものです。そして、そのような哲学をもった作品は芸術、技術、大衆文化の合流点を探り続け、彼のビデオ彫刻、インスタレーション、パフォーマンス、シングルチャネルのビデオは、あらゆる電子メディアアートに影響を与えたと言われています。

<関連授業>
メディアアート概論

<外部リンク>

https://www.paikstudios.com/
https://www.youtube.com/watch?v=PexGYL7c-v8

映画学科
奥野 邦利
1969年東京生まれ。日本大学大学院芸術学研究科映像芸術専攻修了。現在は日本大学芸術学部映画学科へ勤務する傍ら、変容するメディアと物語の関係を軸にした映像作品の制作を手掛けている。何よりも、写真(still image)と映像(moving image)との境界線の観察を喜びとしている。日本映像学会理事。
OTHER TAGS