日本大学校友会会報誌「桜縁」掲載特集 卒業生インタビュー 株式会社マーナ 開発部 プロダクトデザイナー/マネージャー  菊田 みなみ氏 ~ヒットメーカー~

株式会社マーナ 開発部 プロダクトデザイナー/マネージャー 菊田みなみ氏

煩わしさを“楽しさ”に!
シュパッと畳みたくなるエコバッグ

その名の通り“シュパッと”畳めるコンパクトバッグ「Shupatto(シュパット)」。
2015年の発売以来、累計販売数1,300万個*を誇る大ヒット商品を手掛けたのは当時入社1年目の
菊田みなみさん。アイデアの源となった、意外なモノとは。

(注釈)
*2015年11月~2022年10月の累計出荷数

老舗雑貨メーカー
入社1年目の挑戦

2020年にプラスチック製レジ袋の有料義務化がスタートして以降、外出時の必需品となったエコバッグ。市場には数え切れないほどの製品が出回っているが、使い勝手の良さとスタイリッシュな見た目で大ヒットとなっているのが、コンパクトバッグ「シュパット」だ。人気の秘密は、袋の両端を〝シュパッと〟引っ張ることで一気に畳めること。丸めると手のひらサイズになり、収納や持ち運びにも便利だ。
 販売するのは、2022年に創業150周年を迎えた株式会社マーナ。さまざまなアイデアグッズを送り出してきた生活雑貨メーカーだ。そして、シュパットを開発したのが、プロダクトデザイナーの菊田さん。着想は、入社1年目のことだった。
 「ボディータオルや傘ケース、吸水ターバンなど、布ものの商品を作るチームに所属していたのですが、先輩から『簡単に畳めるエコバッグがあったらいいと思うから考えてみたら?』と提案していただいたのがきっかけでした」
当時既にさまざまな形のエコバッグがあったが「畳むのが面倒くさい」「付属の袋に元のように戻せない」「袋だけ紛失しがち」など、多くの人は不便さを感じながらも、そういうものだと諦めて使っていた。しかし、何かしら改善の余地があるはずだと考えた菊田さんは、社内の先輩やエコバッグユーザーへのヒアリングを重ね、新たなアイデアを練った。
 「最初は折り紙のように布を折って袋の形を考えましたが、なかなか良いものが思い浮かばず……。ただ、エコバッグを使っている人の畳み方を観察すると、最初の折り目に沿って畳む人が多いと気付き、これが1つのターニングポイントになりました」



物流センターで使う
不織布帽子がヒントに

畳み方がカギになると確信したものの、決定打は見つからない。試行錯誤を続ける菊田さんに大きなヒントを与えてくれたのは、同社物流センターでの検品作業時に使っていた帽子だった。これは、棒状に畳まれた不織布の帽子で使い捨てのものだが、蛇腹折りで両端を束ねているため、引っ張ると元の棒状に戻る作りになっている。
 「物流センターでの新入社員研修の時、昼休みに、この帽子を誰が一番早く畳めるか競争して遊んだことを思い出したんです」
菊田さんは、まず手のひらサイズの小さな布を蛇腹状に折り、両端を引っ張れば畳めることを確認。そして、ミシンで縫って実寸サイズの試作品を作り(下段写真)、先輩や上司にも見てもらった。
 「帽子を元にアイデアを膨らませる中で、一気に畳めるだけでなく〝持ち手がバッグに収納される〟という点が、他社製品と違う大きな特長になりました」

1.使い終わったエコバッグ、グシャっと丸めて片付けてませんか?


ここがHIT!

底マチがなくどんな荷物にもフィット。食料品、衣類など用途は自由自在。


ここがHIT!

蛇腹折り構造が大ヒットの秘密。アイデアのヒントは、物流センター!?

2.シュパットは、両端を引っ張るだけでさっと畳めてノーストレス!

ここがHIT!

畳んだ後は、くるくる巻いて本体付属のゴムやスナップで留めるだけ

インタビューは、色とりどりの生活雑貨が並ぶマーナのショールームで行った

唯一無二だからこそ
分かりやすさを追求

商品化に向けての検証やデザイン調整を繰り返す中で、菊田さんが特に意識したのは〝感覚的に使える〟ということ。これまでにない構造の製品だからこそ、手に取った時の分かりやすさが重要だと考えた。
 「まずは、持ち手とバッグ本体の色を変えることで、畳む時に引っ張る場所が分かるようにしました」
 畳みやすさを追求するために、生地にプリーツ加工を施し、しっかりと折り目を付けたのもポイントだ。また、商品のネーミングも菊田さんが担当した。
 「ちょっと親父ギャグっぽいんですが(笑)、畳む煩わしさを〝楽しさ〟や〝爽快感〟など、プラスの方向に変えるこの商品の魅力を表現しました」
 そして2015年11月、構想1年、試作1年を経て「Shupattoコンパクトバッグ M」が発売された。展示受注会での評判は上々で、すぐに色柄のラインアップを増やすことが決まったが、店頭では畳む仕組みを認知してもらうのに苦戦した。商品の特長を説明する動画を店頭やWEBで公開するなどの地道な販促活動が3年ほど続いた頃、テレビや雑誌で取り上げられるようになり、これを機に徐々に認知度がアップ。さらに2020年のレジ袋有料化により、爆発的なヒットへとつながった。

ヒット商品開発の
原動力になった挫折


シリーズ累計1300万個という大ヒットについて、菊田さんはこう話す。
 「いくつもの小さなターニングポイントを経て、レジ袋有料化という大きな波に乗れたことはもちろんですが、ヒットした一番の要因は、チームの力です。時に厳しくも的確な助言をくださる先輩や上司、自社で前例のない加工を実現するために工場探しから奮闘してくれた生産管理チーム、ユーザーが望む色柄やパッケージを提案してくれるデザイナー、全てはチームで作り上げた結果です。マーナで働く人は本当にいい人ばかりで、こんな環境で働けるのは幸せだと思っています」
シュパットのヒットは、入社1年目の社員が試行錯誤の末に生み出した快挙だが、実はその前に、菊田さんは苦い挫折も味わっている。
 同社では新入社員に商品企画の課題が与えられ、良いアイデアがあれば商品化されることもあるという。菊田さんら当時の新入社員3人に与えられたのは、キッチンスポンジの商品を企画する課題。もちろん全力で取り組んだが、菊田さんの企画だけ商品化に至らなかった。
 「落ち込んでいた私を心配して、いろいろな部署の先輩が声を掛けてくださって。『元気のない人を励ます飲み会』にも誘っていただきましたね(笑)」
そんな状況で降ってきたのが「簡単に畳めるエコバッグがあれば売れる」という一言だったのだ。自らを「『当たって砕けろ』なマインドがあって、逆境で燃えるタイプ」と分析する菊田さんは、エコバッグの開発という目標を持つことで持ち前の強さを取り戻し、今やマーナを代表する看板商品を生み出した。
 「アイデアが浮かばない時は苦しくてたまらなかったんですが、振り返ってみるとその時間はとても有意義でした。やっぱりものづくりが好きなんですよね」
現在シュパットシリーズでは、超コンパクトに畳めるミニマルバッグ、保冷バッグなども展開しているが、さらに新たなシュパットの開発も進めているという。
 「シュパットを愛用してくださる人が増えるということは、商品に対する責任も増すということ。覚悟を持って今後も頑張っていきたいと思っています」

コンパクトバッグ M
2,178 円(税込) 
耐荷重/5kg 容量/15L
約35×30cmで、どんなシーンでも使い勝手が良い定番サイズ(折り畳むと約φ6×8cm)

ミニマルバッグ Drop 12L
1,980 円(税込) 
耐荷重/5kg 容量/12.6L
約25×50cm、袋口が自然にすぼまる「しずく形状」で、畳むとゴルフボールサイズ(約5×4×4cm)になる

手前が試作品。持ち手の位置など、ここからさらに改良を重ねた。菊田さんの原点とも言えるアイテムで、新しいアイデアを考える時は必ずこれを手元に置くのだという。

新しさと驚きがあること。
それがヒットにつながったと思っています。

「学生の皆さんには、遊びでも学びでも、好きなことを全力で楽しんでほしい」と語る菊田さん

株式会社マーナ

東京都墨田区東駒形1-3-15

1872(明治5)年創業。洋服ブラシの製造から始まった生活雑貨メーカー。
「Design for Smile世界中の暮らしに もっと笑顔の瞬間を」を企業理念に掲げ、消費者に寄り添う、誠実なものづくりに取り組んでいる。

※日本大学校友会会報誌「桜縁」デジタル版のバックナンバーはこちらからご覧いただけます。
2013年芸術学部デザイン学科卒業
Minami KIKUTA
プロダクトデザイン専攻。在学中に課されたキッチンツールを考える課題の分析でマーナ製品にほれ込み、卒業後、プロダクトデザイナーとして株式会社マーナに入社。同社最大のヒット商品「シュパット」を手掛け、現在は開発部マネージャーとして、シュパットブランド全体のマネジメントも務める。1児の母。
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