『デザインって、何から始めるの?』デザイン思考の道しるべ

デザイン思考とは、アメリカで生まれたデザインの方法論です。ビジネスパーソンや研究者など非デザイナーでもデザインを取り扱えるように、デザイナーの思考方法や創作活動を5つのステップで整理しています。
体系化された世界で最もポピュラーなイノベーションの手法といえます。

出典:「スタンフォード・デザイン・ガイド デザイン思考 5つのステップ」スタンフォード大学 ハッソ・プラットナー・デザイン研究所(2012)から加工し作成

ユーザーへの「共感」から始まる

デザイン思考のスタートは、ユーザーの行動観察とよくいわれます。
徹底的な洞察が、ユーザー本人さえも気がつかない気持ちの動きに「共感」することに繋がります。
実際にデザイナーは、フィールドワークやエスノグラフィという手法を用います。
これは単純なユーザーへのインタビューや調査ではわからない、ユーザーの体験をデザイナー自らが一緒に経験する観察方法です。
こういったデザイナーの外側にある世界と積極的にかかわりながら探索することが重要です。

ユーザーの欲しいものではなく、あなたがしてあげたいことをデザインする

よく、デザインすることを説明するときに「プレゼント」を例に取ります。
もちろんプレゼントですから、自分の欲しいものを相手にあげても喜ばれることはまれでしょう。
しかし、相手が欲しいと言っているものをあげても相手の期待値を超えることはありません(とはいえ、いずれにせよプレゼントとはうれしいものです)。
デザイン思考が共感から始まるのは、このユーザーの期待値を超えていくデザイン提案を行うことにほかなりません。
深い洞察から、ユーザー自身も意識していないが「そうそう!こういうのが欲しかったんだよね!」と思える商品やサービスをプレゼントすることがデザイン思考の根幹です。

授業内でのアイデア発想の様子。自分の考えだけでなく、他者の考えにも触れることで、気がついていなかった新たな発見やアイデア同士の結びつきを促します。

試して、探って「こたえ」を創り出す

デザイン思考には大きな落とし穴が2つあります。
1つは、前述した「ユーザーの欲しいもの=正解を探してしまうこと」があげられます。
始まりはユーザーへの共感ですが、ユーザーに対して、あなたは何を手渡してあげたいか?に真摯に向き合うことが重要です。
誰も正解などもっていないのです。あなたの作る「こたえ」が、数ある可能性のなかの一つです。
もう1つの落とし穴は、5つのステップになっているがゆえに「1つずつ階段を上って行けば正解に辿り着くという誤解をしてしまう」ことです。
デザイナーは、試してみるということを日常的に行います。
手近にあるものを組み合わせたり、想像したり、失敗を繰り返しながら、自分なりの「こたえ」に辿り着くまでに手探りでデザインを構築していきます。

頭の中ではうまくいっても、実際に作ってみると失敗することは多くあります。授業でも、作る時間・考える時間をしっかり取って、試してみることを支援します。

創造的な活動は、思いつきやセンスと誤解されがちです。もちろん、起爆剤として飛躍する発想は必要ですが、単なる思いつきから「こたえ」に仕立てていく過程は、とても地道で泥臭いものです。正解のないものに「こたえ」を与えるために、試して、失敗して、発見して、デザイナーは何度も自分の考えをアップデートしていきます。

デザイン思考とは

・デザイナーの思考プロセスを5つのステップに整理したもの
・観察を通じたユーザーへの共感から、あなたの実現したいことを定義する
・デザイナーの作る「こたえ」は、試作と実験を繰り返した多くの失敗の上に成り立つ

デザイン学科
片桐 祥太
2012年度、日本大学藝術学部デザイン学科インダストリアルデザインコース卒業。その後、株式会社クルーにてインダストリアルデザイナーとして勤務。商品開発研修の設計・ファシリテーション、製品デザイン業務を行う。その傍ら、グラフィックレコーディングやアイデアスケッチなどの可視化手法や、ワークショップという営みを通して、共創の場を活性化する活動をしている。可視化と発想の関係性を研究テーマに探究している。
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