CA Soa代表・小川が語る、アニメ成功に欠かせない“企画とスタッフィング”

※本記事は『サイバーエージェントオウンドメディア CApture』からの転載記事となります。

2025年9月、日本大学芸術学部(以下、日藝)とサイバーエージェントが産学連携で実施した特別講座「芸術総合講座Ⅳ コンテンツ・ビジネス実務」は今年で3年目の開催となりました。今年も昨年同様全5日間のカリキュラムにて、「視野を広げる」をテーマに、ものづくりからマーケティング、プロジェクト運営まで、クリエイターに必要なビジネス視点を学びました。

本記事では、その1コマとして行われた CA Soa 代表・小川のアニメ業界における「プロジェクトの作り方」の講義の一部をレポートします!

アニメ成功の肝は「企画」と「スタッフィング」――足し算ではなく掛け算のチームづくり

“製作”は出資やマネジメントを担うビジネス面、“制作”は監督や脚本家、クリエイターとともに作品を作り上げる現場のことです。私はこれまで後者の“制作”を主戦場にしてきました。プロデューサーの役割は、企画の立ち上げからスタッフィング、監督との作品設計まで、多様な個性を持つクリエイターと伴走しながら、チームをまとめていくことにあります。

制作で最も重要なのは、企画とスタッフィングです。多くの人が関わるアニメ制作では、企画の方向性を明確にし、それに合ったスタッフをどう組み合わせるかが作品の質を大きく左右します。ここは絶対に妥協できないポイントです。

スタッフィングで大切なのは、クリエイターそれぞれの得意・不得意を理解し、特徴を生かした組み合わせを考えること。互いの強みを掛け合わせ、弱みを補い合うことで、単なる足し算ではなく掛け算のチームが生まれます。その掛け算がうまく機能すると、作品の魅力が一段と高まり、面白さへとつながっていきます。

だからこそ私は、企画とスタッフィング、この2つを何よりも重視しています。

業界の現在地――本数増、人手不足、長期化

アニメの本数は年々増えています。しかし、働き方改革による労働時間の制限や外注環境の変化により、制作期間は長期化しています。予算規模は拡大しても、その分ランニングコストが膨らみ、現場に十分なお金と時間が回りにくいのが現実です。

海外スタジオに依存する生産体制も、いつまでも続けられるわけではありません。現場には「作品数は増えているのに、クリエイターが足りない」という課題が横たわっています。

テクノロジーは“置き換え”ではなく“支援”

こうした課題に対し、私はテクノロジー導入が欠かせないと考えています。AIを「人を置き換える存在」とは見ていません。抜け漏れを防ぎ、工程を平準化し、支援ツールとして活用する。そうすることで、クリエイターが“創る時間”に集中できる環境をつくりたい。それがCA Soa設立の理由の1つでもあり、今まさにチャレンジしていることです。

人材不足やクリエイターの高齢化が進むなかで、テクノロジーは現場を守るための現実的な手段です。新しい挑戦を積極的に導入し、より良い制作環境を築くことが未来につながると信じています。

アニメ制作の新時代を切り拓く「CA Soa」 クリエイターと描く未来

https://www.cyberagent.co.jp/way/list/detail/id=32023

良いクリエイターとは「誠実である」こと

「好きを仕事にする」ためには、“好き”だけでは足りません。大切なのは、自分自身と真剣に向き合い、誠実に取り組む姿勢です。

たとえばアニメーターで言えば、最初から天才的に描ける人はごく稀で、多くはまず量をこなすところから始まります。その過程で必要なのは、仕事に対して誠実であること。与えられた一つひとつの課題に真摯に向き合うことで、技術も経験も積み重なっていきます。

そうして培われた観察眼や手技といったアナログの力は、どんな工程でも活きる“基礎力”になります。だから私は、良いクリエイターに共通する条件は誠実さだと考えています。

アニメ業界を志望する方はぜひ意識してみてください。

アンケート内容抜粋

・チームで制作に関して何より大切なのは「掛け算のチーム」であることだ。個人の得意分野や情熱を組み合わせ、互いの強みを引き出し合うことで、一人では生み出せない成果に到達できる。チーム制作とは単なる分業ではなく、コミュニケーションを通じて相乗効果を生み出すことであると改めて気づいた。(デザイン学科・2年)

・今回の講義では「良いプロジェクトとは何か」というテーマをもとに、創作活動を進める上での根本的な姿勢について学ぶことができた。制作を進める上ではビジネス面やチームとのコミュニケーションも不可欠であり、好きという気持ちだけでは不十分だという現実的な指摘もあった。講義を通して、創作活動を自分だけの表現にとどめず、社会や他者との関わりの中で成立させていく視点の大切さを改めて実感した。(映画学科、2年)

授業に参加した学生の感想

日本大学芸術芸術学部映画学科4年生

昨年開催された同講義をきっかけに、アニメ制作会社CA Soaに興味を持ち、内定者に。今年も一受講生として再び講義に参加。

講義を通じて国内外を問わず多くの人々を魅了する「アニメ」という熱量の高いコンテンツが、いかに強固なマネジメント力と構造的な組織によって支えられているかを知る貴重な機会となりました。特に、良い作品を作る上で不可欠な要素だと強く認識したのは、スタッフィングの段階でそれぞれの得意・不得意を見極め、適切な人材配置を行う「人を見る力」です。これこそが、作品のクオリティと進行を左右する最も重要な要素なのだと実感しました。

私たちのようにクリエイティブな仕事を志す学生には、単に「作品を制作する力」だけでなく「どう相手に刺さるのか」を徹底的に考え抜く企画力、そして「ビジネスの仕組み」を理解し、主体的に業界構造に関与していく責任があるのだと強く感じています。 小川さんの言葉はアニメ業界の課題を変え、クリエイターが正当に報われる未来を作るためには、自分の得意分野を確立しそれを現場で活かすプロの知識と、業界構造を変革する視点が不可欠だと教えてくれました。

そしてそれこそが「好きに真剣である」ということであり、ひいては「クリエイティブを仕事にする」プロとして社会に対して責任を持ってコンテンツを世に出し続けることに繋がるのだと確信しています。

来春からアニメ業界の一員として働いていく中で本講義での学びを活かし、精進していきたいと思います。

編集後記

小川の講義では、業界のリアルを共有しつつも「企画とスタッフィング」「掛け算のチーム」「テクノロジー活用」という話を持ち帰ってもらいました。

日藝での講義を通じて“好き”を社会に接続する具体策を持ち帰った学生たちが、次の現場でどんな掛け算を生み出すのか、今後がとても楽しみです。

「芸術総合講座Ⅳ コンテンツ・ビジネス実務」

日本大学芸術学部 講座マネージャー:

芸術教養課程 准教授 加藤亮介 / デザイン学科 専任講師 片桐祥太

芸術教養課程
加藤 亮介
日本大学芸術学部 芸術教養課程 准教授 博士(芸術学) グローバルメディア・国内メディア企業にて、コンテンツ・ビジネス業務に従事、 その後、研究者となる。日藝では、芸術論から産学連携まで幅広く担当。
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