音楽フェスという名の真面目な実習

「ONGI FEST をやろう」

 私含め、スタッフの中でこんな話が盛り上がりました。そんな思いつきで始まったこの企画。2025年度にも無事に2回目のONGI FESTが開催されました。
 ONGI FEST(読み方は「おんぎふぇす」。音響技術という実習の略称である「音技(おんぎ)」に由来します)とは、放送学科音響技術の特別実習のことです。音響技術専攻の2年生がバンドやグループを結成して出演者となり、フェス形式で演奏を行い、それを収録します。
 音響技術を専攻している多くの学生は、「将来、音に関わる仕事がしたいなー」と考えています。私自身、「音声さん」としてテレビの音楽番組を制作していますので、その楽しさはよく知っています。
 制作の現場で特に必要とされるものは「コミュニケーション能力」。特に音声さんには、この能力が必須だと私は考えています。なぜなら、アーティストの方々と一番距離が近い技術職だからです。ご本人を前にマイクをセッティングし、音の聞こえ方の調整などを行います。「どうしたら気持ちよく演奏してもらえるか」「信頼を得て、ミックスを任せてもらうには、どのように声をかけるといいか」ということを、常に考えて仕事をしています。
 そもそも、我々が準備をしている間、アーティストは何をしていて、何を考えているのでしょうか。それさえ分かれば、どのようなコミュニケーションを取ったらいいのか理解できるのでは、そしてそのためには、自分自身がアーティストサイドに立ってみるのが一番早いじゃん、というのが我々の出発点でした。
 “そちら側”に立ってみると、たくさんの「大変」がありました。
 まずは、練習が大変。出演する学生たちの大半は、楽器未経験者でした。ものすごく当たり前ですが、1曲を最後まで演奏することの大変さを知りました。3ヶ月みっちり練習して「ギリギリ」人前で演奏できるレベルになりました。
 次に、制作側へたくさんの資料を提出する大変さ。「良い感じに演出しておいて」では、ライブ・収録は成功しません。ステージプロット(メンバーのパートや、立ち位置などを表記するもの)、照明のリクエスト、楽曲のサイズ表、音源。たくさんの資料を提出する必要があります。制作サイドはそれを元に進行、収録を行いますので、不備があると成立しません。事務的な大変さもたくさんあり、アーティストの代わりに事務作業を行うスタッフの大切さが分かります。
 最後に人前で演奏する大変さ。今回は出演学生の友人やご家族に声をかけ、なんと70人近くのお客さんが来てくれました。知り合いばかりなのでホームではありますが、とても緊張したと思います。演奏を含め、ステージ上での振る舞いなど全てのパフォーマンスが、ライブの盛り上がりに影響します。この体験をすると出演者に対して「なんかちょっと下手じゃない?」なんて気軽に言うことはできません(もちろんプロというものは、その中で100%以上の表現をするものなのですが)

 と、つらつら書いてきましたが、一番体感して欲しかったことは「一生懸命に仕事するって楽しい」ということです。今回スタッフ側は全員プロ(カメラマンは映像技術専攻の学生にお願いしました)。そのプロ達が楽しく真剣に仕事をしている姿を見て、「大変そうだけど、楽しそうだな」と学生達が感じてくれていたら、こんなに嬉しいことはありません。もちろんこれを機に「演者側もいいかも」と思ってもらっても素敵だと思います。
 将来、このONGI FEST経験者から、アーティストとエンジニア両方が輩出されたら最高です。

誰かが企画して
誰かがステージを作って
誰かがセッティングして
誰かが照明を仕込んで
誰かがマイクチェックをして
ようやくステージが完成します
放送学科
澤田 顕一
日本大学芸術学部放送学科専任講師。放送学科を卒業後、テレビ技術会社に就職。音楽番組を中心に音声スタッフとして制作に携わる。2023年より日本大学芸術学部放送学科の教員として、「音響技術」という実習を中心に指導を行なっている。
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