無駄を嫌うあなたへ

広告はどんどん効率よく、スマートに

「最近よかったテレビCMはありますか?」
急に言われてもすぐには思い出せないですよね。そもそも、そんなにしっかり見ていないのでは?こっちは早く番組の続きが見たいのに、15秒や30秒にいちいち意識を割いていられるか!という気持ち、よくわかります。なんなら、お金を出せば広告を表示させないようにだってできるし。うーん、快適。プレミアム万歳!
一方、ネット上はどうでしょうか。よかったCMと言うとやはりピンとこないかもしれませんが、「どうして知っているの?」というような、「あなたが今まさに欲しいもの」の広告が流れてきて驚いたことはありませんか?YouTubeやInstagramの広告は、ユーザーがネット上に落とした細かな情報を手掛かりに、その人が欲しがっているものを推測し、紹介してくれる特徴を持っています。まるで「あなたの為の広告」です。興味のあるものだけが流れてきて買う側も嬉しい、無駄なく広告のパワーを活用できて売る側も嬉しい。情報のやりとりは、どんどんスッキリしてきているように見えます。

CMって「おせっかい」なんです

テレビを見ていると、頼んでもいないのにCMが流れてきます。もちろんこれらにも「ターゲット」が設定されていますが、インターネット広告ほどの精度で特定の誰かへ届けることはできません。当然、見たがっていない人の目に入ってしまうことがあります。この偶然性は、例えば「炎上」といったようなトラブルを引き起こします。企業が伝えようとしたメッセージが、思ってもいない捻れ方で間違って届いてしまった結果です。昔から起こっていたことではありますが、このごろは「炎上」している様子まで見えてしまうため、悪いイメージが、より多くの人に、より速く浸透してしまう危険性があります。
大勢に嫌がられて、望んでもいないのに問題になって、つくるにも流すにもお金がたくさんかかるらしい。おや、テレビCMって、役に立たないし、邪魔者なんじゃない…?ええ。在学時、僕も同じように感じていましたとも。
一方で、この間違って届いてしまった数十秒は、ときに思わぬ素敵な出会いをもたらしたり、自分でも知らなかった自分に向き合うきっかけになったりもします。例えば、音楽。
「あれ、これってなんの曲?」
ふと聞こえた曲が気になって、テレビを見たらCMは残り数秒。右下の小さな曲名も消えちゃって、急いでスマホに聞かせて検索、なんて経験はありませんか。頭に残った歌詞を頼りになんとか見つけたお目当ての歌は、その時点でもう、ちょっとだけ特別になっていたり。想定外の誰かに届いてしまうことは、必ずしも悲しみだけをもたらすわけではないように思えます。
“欲しい”はすぐに調べられ、“欲しくない”はシャットアウトできるスッキリ便利な時代。膨大な情報に晒されているのに、偶然の出会いは起こりにくくなるよう整えられています。しかしテレビCMは今の時代には珍しく、次々に余計な情報を届けてきます。あなたとあなたの知らなかったものを無理矢理に繋いでくるのです。おせっかいな存在ですね。でも、おかげで自分の世界がググッと広がることがあります。

「学生のうちにやっておいた方がいいことって何ですか?」

自分が卒業生でもあり、年齢も近いということから、学生によくこの質問をされます。
僕は助手ですので、教員というよりはいくつか年上の先輩がなんか言ってるぜ、くらいに聞いてもらえたら幸いなのですが、それはもう、楽しそうなこと全部です。決まっています。興味のありそうな匂いのする方へ、ズンズンと近寄っていくことをお勧めします。そしてここでポイントです。「無駄かも」と思うことにも意識を向けてみてください。自分には関係ないと思うことと、自分から関係してみてください。知らないところへ行き、役に立つかわからないものをグングン吸収すると、気がつけば表現のためのエネルギーになっていたりします。そうしてたまに振り返ったとき、「無駄だった」と思えるものは、案外少ないのかもしれません。
僕たちがコミュニケーションをとるとき。つまり他の誰かと関わるとき、常に間違いや失敗が起こる可能性があります。しかし同時に、「偶然の出会い」が起こる可能性もまた、あらゆる瞬間に存在しているということなんです。特に大学生という期間は、さまざまな面でこれまで以上にできることが増えるタイミング。きっと思いもよらない出会いだらけです。どうか無駄を恐れず、無駄を愛してみてください。日藝でこれから経験するたくさんの「寄り道」が、きっとあなたの人生を支えてくれるから。

放送学科
鈴木 康平
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