演劇学科生がパリで国際共同制作に参加!

<企画は3年ほど前に>

2026月3月から4月にかけて、日芸演劇学科xフランス国立高等演劇学院(通称コンセルヴァトワール)x静岡県舞台芸術センターSPACの3つの組織による共同制作作品である、マルクス・ボルジャ作・演出『夢の浮橋[仮題]』*の世界初演公演(2026年4月11日-16日)に、演劇学科舞台構想生3名、助手1名、教員3名が参加してきました!

この企画は、今回の作家・演出家・作曲家のマルクス・ボルジャさんが、フランスの演劇界の共通の友人を通じて、学科主任の奥山にほぼ3年前に連絡をくれたことから始まりました。ジャンヌ・モロー、ジャン=ポール・ベルボンド、ジュリエット・ビノシュといったフランスの名優たちが卒業したことで知られる国立高等演劇学院通称コンセルヴァトワールの卒業制作公演への参加です。

(↓公演ページ。当日の詳細パンフレットもあります。フランス語)https://cnsad.psl.eu/evenements/presentations-publiques/le-pont-flottant-des-songes-titre-provisoire

マルクスは、今回の作品は紫式部「源氏物語」をモチーフにするといいます。日本の古典芸能である能楽(能と狂言)も舞台に取り入れ、音楽劇の要素もある現代劇にするとのことです。日本側の共同制作者を探しているが、コンセルヴァトワールが演劇専門の高等教育機関なので、日本の演劇実践に強い大学、そしてかつコンセルヴァトワールは俳優養成が中心なので(毎年2000人以上受験して30人だけ合格する狭き門!)、演劇のさまざまな創作セクションをもつ大学が一緒に芝居を作るパートナーになってくれたらなーということで、「うちの大学どう?」となったわけです。

<1年前にパリで…>

2026年4月中旬に新作初演をするため、パリでの稽古に先立ち、コンセルヴァトワールの最終学年の3年生30余名が2026年2月下旬に日本に来て、3週間程度滞在して能をはじめとする日本の文化を学び、作品の稽古も日本で始めたいとのこと。随分お金がかかる企画になりそうだったので、学科主任として奥山は2025年春にパリに飛び、コンセルヴァトワールの教務課のやる気と資金集めの状況を確認。OK!日本側でも日芸から派遣する美術デザイナー(日本の文化の‘几帳’からインスパイアされた美術を創案してくれた助手伊東あおいさん!)、音響デザイナー(フランスの音響デザイナーと共同で仕事の取分けから自分で落としどころを見つけてくれた現在舞台構想3年生森柑水さん)、プロデューサー補(獅子奮迅の活躍をした2名:現在舞台構想3年菅沼駿介さん、2年島村佳歩さん)、それぞれ帯同する教員の渡航費などをファンドレイズしなければなりません。幸い、日本舞台芸術ネットワークを通じて文化庁に産学連携若手アーチスト育成で申請した文化庁の「クリエイター支援基金」(SEED ― Research & Education Program)の助成と、芸術学部学部長指定研究に選んで頂いたことで、今回の共同制作参画が実現できる運びとなりました。さー、稽古始めるぞ!

 

<福山での能の稽古、静岡での演劇ワークショップ>

今回は「紫式部」役で出演される喜多流シテ方能楽師大島衣恵先生に1週間、能のご指導頂くことになりました。大島能楽堂がある広島県福山市にフランス人30余名と滞在。福山市の枝広直幹市長のご好意で福山城の見学も!

さて、謡と仕舞の稽古は、正座をしたことが無い若者がほとんどというところから始まりました。謡は何曲も全部アルファベットに書きおこして覚えます。ムスリムの学生も9人ほどいて、ラマダンのこの時期、太陽が出ている間は食事ができないという簡単ではない状況での稽古です。しかし、世界のあちこちで能を教えた経験が豊富な大島衣恵先生です!「最終日にはお客さんの前で公演しましょうかね」(すごく優しいけれどキッパリ)と目標を高く定めると、さすがは2000人の中から選ばれた学生さん、発表会では立派に舞台を務めることができました!
(写真は、何曲も日本語で謡をうたい、仕舞を舞った発表会の後で。晴れがましい顔!袴も着せてもらいました!はい、爆速で着付しましたよ!)

静岡では芸術監督の演出家宮城總さんのワークショップを受けたり(今回の創作に影響大でした)、町に出て体験した日仏の文化の違いからシーンを作って互いに見せ合ったりして、日本チームも大いに刺激を受けました。

日仏の演技コースのカリキュラムの内容の違いはある程度知っていましたが(コンセルヴァトワールはフェンシングの授業とかもある)、ほとんどの学生が3カ国語以上を話すこと、元バレリーナの女優が能のお仕舞を素早く上手にできたり、フランス語でセリフをしゃべった瞬間にこちらが舌を巻くような俳優の卵が何人もいたりと驚くことしきり。

<パリへ!>

さて、今度はパリに私たちが行く番です。2月28日にイランへの攻撃が始まったので、たまたま別便で取っていた奥山以外の全員が航空券の予約を取り直すはめになり予定より1週間遅れでパリに入ることに💦。さらにAirbnbでとった宿泊先の鍵がうまくピックアップできず女子学生2名は到着早々奥山のホテルの居間で一晩寝たり、ある日は鍵を忘れてロックアウトされてフランスの学生のアパートで寝せてもらったり、と「旅の醍醐味はトラブルにあり」とは言うものの、海外での長期レジデンスは一筋縄ではいきません。しかし不思議と、高揚感の中、乗り越えられるのも旅ならでは、かも(安全に終われてただ幸運です)。

コンセルヴァトワールの劇場は内装が木造の、約200年前にできた歴史的建造物です。そこで稽古初日から建て込んで稽古をします。ベルリオーズの「幻想交響曲」がここで初演されたそうです(かつては音楽のコンセルヴァトワールもここにあった)。芝居の稽古は…それはそれは長時間続きました。フランスの劇場のスタッフには「働き方改革」が行き渡っているものの、創作の時間は、卒業公演用の全員に見せ場が必要な本を書きおろしており、芝居が3部構成で休憩含み合計5時間50分のまったくの新作ですので、ただひたすら稽古せざるを得ません――初日をあけるために、作品の精度を上げるために。フランス語による稽古進行の中、学生たちはよく頑張りました。勿論スーパー演出助手のバイリンガルのルーさんが助けて下さるのですが色々な稽古や準備が同時に起こるのでかなり自分で解決しなければなりません。「必要こそが語学習得の要」なのは確かで「聞いていたらだんだんフランス語がわかってきた…」と語ったツワモノ学生も。日本側プロデューサーとクレジットされている奥山が帯同教員とともに一時日本に帰国している間、学生が、連日変わる芝居の中身をレポートしてくれました。連日の変更に対応しつつ”自分たちだけで”フランスの学生や演出チームと問題解決し、深くコミュニケーションしながら舞台稽古までの時間を乗り切っているのを東京で読み、「日々成長している」学生たちを感じることができました。そんな学生たちを通してわかってきたのは、良く周りを見ること、わからなければ聞くこと、自分から話すこと、こんな基本的ことを丁寧に進めることで、たとえフランス語の稽古場でも、自分で自分の居場所は作れるのだということです。19歳から21歳の学生がこの2か月を乗り切ったことに感動しています。

<初日が開いた!>

芝居は、合計すると6カ国語以上の言語や日本やウクライナやアフガニスタン(コンセルヴァトワールは海外から政治難民の学生を受け入れ)などあちこちの国の歌が使われている多様性に満ちた作品になりました。真っ暗な中、声だけで芝居が始まる。場面が変わると、INALCO(フランス国立東洋言語文化学院)で主人公の「ヴィオレット」(そう、「紫」です!)が「源氏物語」の講義をしている。女子学生から「今の時代に源氏物語を教えるのは、なぜ?」と質問の手が上がり…と、エキサイティングな場面展開が次々と繰り広げられます。演劇の稽古場、日本の老人と孫、精神分析の現場、みんなが集まるキャバレーでの出来事などなど、時々入る源氏物語からの和歌の抜粋、日本文化へのオマージュと、まったく飽きずに見られる6時間でした!と、隣で見ていた演劇関係者も激賞してくれました!マルクス、良い芝居になったね、うちの学生や教員と「一緒に」やることを最後まで貫いてくれてありがとうと、この作品の圧倒的な芸術上の強度を引っ張ったマルクスにも感謝を伝えたいです。

<振り返って>

コロナで失った他国の文化にふれる機会を取り戻したい――なぜなら他国の文化に触れることで「私たちを形成している日本の文化」はどのようなものなのかに初めて目が行くことが多いからです。そのために演劇学科では現在もこれからも学生に海外との接点を提供したいと考えて、授業や課外活動を構成しています。そして、初期の予想を超えて頑張れる学生たちがいたからこそ、この企画が想像以上の成果をもって実現できたということを実感しています。

喜んだり怒ったり泣いたり、稽古場の中でも外でも、日本人からすると「そんなに!?」と思うような豊かな感情表現が日常から(私たちの目から見ると)許されているフランスに比べると、誉め言葉や感情表現が控えめなのが日本語ですが、最後に学生さんたちには Je suis vraiment fière de vous! (あなたたちを本当に誇りに思うよ!)と世界に聞こえるような大きな声で言いたいです。

5月22日(金)には100人以上の学生やお客様をお迎えして「帰国報告会」を実施しました。第一部は参加者による「夢の浮橋(仮題)」の一部朗読を日本語でお送りしました。その写真がこちら。

今回の経験が君たちの将来に役立ちますように。そしてすべての日芸の学生が好きなように世界にはばたけますように。平和を享受できるいまの環境があるからこれらが可能になるのだという当たり前のことに改めて思いを馳せる60代教員がこの文を書きました。

 

 *仏語の題はLe pont flottant dessonges [titre provisoire]) [仮題]までが正式な題です。フランス語上演。

©CHRISTOPHE RAYNAUD DE LAGE
©CHRISTOPHE RAYNAUD DE LAGE

初日のカーテンコール 日芸学生・教員も舞台上に。

演劇学科
奥山 緑
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