世界の「解像度」を高める―ジャーナリズムがもたらす力

ジャーナリズムと聞いてどんなものを思い浮かべるでしょうか。5W1Hを原則としたシンプルな新聞記事かもしれませんし、事件の渦中にいる人を取り囲むテレビカメラの一群かもしれません。広辞苑によると、ジャーナリズムは「新聞・雑誌・ラジオ・テレビなどで時事的な問題の報道・解説・批評などを行う活動。また、その事業・組織」であると言います。ただ、それは狭義におけるジャーナリズムです。

最初は、素朴なものだったはずです。果実をよく実らせる樹木の在り処、安全な水場の位置、より鋭利でより頑丈な鏃の作り方…。私たちは、他者と情報を共有することで生存可能性を向上させ、社会を発展させてきました。やがて社会は複雑化し、自らの共同体のみならず、自身が存在する広範な世界に関する情報を、より多くの他者と共有する必要性が認識され、ジャーナリズムという「理念」が誕生したのです。この理念を一言に圧縮すれば「世の中の事実を観察・整理し、問題点を摘示することで、人間の営みを支える志」となります。

情報が錯綜する現代において、情報の正確さを求める声はますます高まっています。「マスゴミ」という言葉は聞き慣れたものになり、報道機関に不信感を抱く人が増えています。だからこそ私たちは、ジャーナリストが報じる情報が世界のありのままであるところの「事実」なのか、という問いを常にもたなければなりません。換言すれば、世界で生じる「事実」は、ジャーナリストが取材し、報じる時、どのような変化を遂げるのでしょうか。この問いを掘り下げることは、一人の人間として世界と対峙した時、それを認識するうえでの「解像度」を高めることにつながります。そして、表現者にとって不可欠な批判的思考や多角的な視点を揺籃するだけでなく、人間同士の相互理解に基づいた「善く生きる」力をもたらしてくれます。

日本大学芸術学部のジャーナリズムに関する講座では、こうした理念に基づいて学びを修めていきます。文芸学科の「ジャーナリズム論」では、ジャーナリズムの成り立ちから民主主義との関係、大手報道機関の概要などの「全体像」を俯瞰するとともに、災害や事件、社会問題を巡る報道の事例を掘り下げることで、今日のジャーナリズムが抱える問題点を知り、より良い社会を実現するための報道のあり方を考えます。同じく文芸学科の実習系授業では、取材作法からインタビューの技術、記事の書き方、テーマの決め方といった取材者にとって必須となる技能を実際の記事制作を通じて身につけていきます。

「ジャーナリズム実習」における作例
https://www.nichigei-bungei.info/carrier/interview/okimotoatsuko/
https://www.nichigei-bungei.info/carrier/interview/yokoyamahiroyuki/
https://www.nichigei-bungei.info/carrier/interview/fujimiyawakana/

文芸学科
小神野 真弘
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