私は大学卒業後、電機メーカーのデザイン部署で電気製品のデザインをしていました。携帯電話のデザインを担当していたのですが、当時は「0円携帯」といって、機種変更が無料でできる仕組みがあり、まだ十分使える携帯電話が次々と廃棄されていく現状がありました。自分が精魂込めてデザインしたものが簡単に廃棄されていく現実と、売るために機能は変わらないのに見た目だけを変えたモデルチェンジに自分のデザインが利用されていることに疑問を持つようになり、会社を退職。大学に戻って、エコデザイン・サステナブルデザインの研究を始めました。デザイン自体は世の中を良くするために今後も必要ですが、以前のような使い捨ての提案は通用しなくなり、環境に配慮した次世代のデザイン提案が今後主流になると考えたためです。専門領域は、デザインの中でもプロダクトデザインといって、自動車や電気製品、文具、玩具、家具などすべての立体物が対象です。この分野は、近年では色や形を考える、一般的にイメージされるようなデザインだけではなく、新しい仕組みやシステムなどを考え出すことも含まれるようになりました。そのプロダクトデザインを行う上で、もの(製品・商品)を製造する場面から流通、廃棄まですべての場面に置いて持続可能性を考えていくというのが、サステナブルデザインです。プラスチックに代わる新素材や、地球に負担をかけない製造法、リサイクルしやすい製品の構造の研究などもこれにあたります。こういったものを積極的に活かした、次世代のデザインとはどのようなものなのかを研究しています。
デザインとはそもそも、「広告」「製品」「建築」といったどの分野も共通して、世の中に直接的に影響を与えられるという点で、とても面白いものだと私は思っています。政治家は制度(法律)を作って人々の生活に影響を与えますが、デザイナーはデザインしたものを見たり使ったりしてもらうことで、日々の生活の中でじわじわと人々に影響を及ぼします。逆に言うと、それだけ責任も伴います。例えば乗り物や危険度の高い工具などは、デザインの失敗で、最悪の場合、使用者が命を落としてしまうことさえあります。しかし、自分のデザインで少しでも世の中をより良くできるチャンスがある、ということは、デザイナーにとってはとても大きな魅力だと思います。デザイナーたちは、少しでも世の中を良くしたい、楽しくしたいと考えてデザインしていますので、「小さな発明=デザイン」と考えてもらってもいいかもしれません。日常を観察して、「ここをこうしたらもっと良くなるのに」と少しでも感じることがあったら、実はそれがデザインの源です。ただ単に「これは嫌だなぁ」でも構いません。嫌なこと、不便なことをどう解決していくかを考えることがデザインなのです。
世の中の様々なことに興味を持ってください。デザインの一番はじめのきっかけとなる「人が気づきにくい小さな不便」を見つけ出すことは、「問題発見能力」といって、とても大切な能力です。絵が好きな人は、自己表現を追求する芸術家・アーティストを目指すいう道もありますが、表現能力を活かして世の中を少しでも良くする、楽しくするデザイナーという道もあるということをぜひ知っておいてください。
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