12月中旬。完成したゼミ誌を見て、私は少し笑ってしまいそうになりました。
私たち窪田ゼミのメンバーが、企画編集すべてを手がけたゼミ雑誌『fiction』。その内容が自由すぎる、と改めて感じたからです。
ページを開いて現れるのは、卓上ゲームのシナリオ、小説、写真、イラスト、記事。その内容に一貫性はなく、文字通り、『やりたい放題』の有様です。
ゼミ誌『fiction』には小説だけ・記事だけといった掲載内容の決まりがなく、各々が書きたいものが好きなように詰め込まれています。
それが、まるで窪田ゼミの自由な雰囲気がそのまま雑誌という形になったように、私には思えたのです。
4月。まだゼミメンバーの名前を覚えきれていないころ、窪田先生からひとつの問題を出されました。
「A4の紙を使って自分の考える本を表現し、発表してください。切っても折っても、文字や絵をかいても良いです」
制限時間、30分。
当時の私は窪田先生からの急な問題に戸惑い、大変なゼミに入ってしまったかもとすら思いました。
しかしその気持ちは、他の人の発表を聞くうちに、違うものへと変わっていきました。
紙を作家の原稿用紙に見立ててくしゃくしゃに丸める子、紙に切り込みを入れて簡易本を作る子、巻物のように巻く子。
十人いて誰も被らない、バラバラで自由な発表でした。思いつきもしなかったみんなのアイディアのそれぞれに、とても驚いたのを今でも覚えています。
そしてその自由さは、ゼミ誌制作のときも訪れます。
ゼミ誌についての話し合いは、少し難航したように思います。
全部嘘の記事を書く、存在しないひとのインタビューを書く、何かの雑誌のパロディにする……。ゼミ誌の方向性についての案がたくさん出たからです。
さまざまなアイディアの末、雑誌名を『fiction』にすることだけが決まり、あとは縛りなし。各々が好きなように書くことになりました。
期限は夏休みが終わる頃まで。それまでに、インタビューする人はして、小説を書く人は書き、記事を書く人は旅行したり記事に使う写真を撮りに行ったりします。
ゼミ誌記事のほとんどが、ひとりひとりで制作したものです。
ですが、そのなかに何人かで協力して書いた記事があります。林真理子先生が文芸学科に来訪されたのを書いたルポ記事です。
7月。就任されたばかりの新理事長、林真理子先生が文芸学科を訪れにくるとの連絡が入り、私たちはその様子をルポタージュとしてゼミ誌に載せることにしました。
ルポタージュなので、内容を記録しておくのはもちろん、その段取りや雰囲気も覚えておかなければなりません。ゼミの先生である窪田先生から色々なアドバイスをいただき、そのアドバイスを胸に、私たちは文芸ラウンジへと向かいました。
ラウンジに林先生がいらっしゃったときのことを、今でも昨日のことように覚えています。厳かなお話会だろうと思って緊張していましたが、実際は全然。バルーンなどでラウンジが飾り付けされて、ちょっとしたパーティーのような、とても明るい雰囲気のお話会でした。
詳しくはゼミ誌に載せているので、読んでいただけたらなと思います。
ルポ記事では、役割を分担して、それぞれで協力して話し合いながら作りました。
当日の内容を文字に起こすひと、記事になるように体裁を整えるひと、読みやすいようにレイアウトを考えるひとなど、みんなでひとつの記事に向かいました。
完成品を見たときは、本当に感動しました。書いた記事が、何十倍も魅力的になって出来上がったからです。
正直、自分ひとりでは絶対にこの記事は完成しなかったと思います。それは、この記事だけではなく、ゼミ誌『fiction』に対してもです。
夏休み中にひとりで書いていた記事が、編集をしてくれた子の力によってうまくまとまり、自分の想像以上のものが出来上がりました。これがゼミ誌の良さだなとつくづく思います。
窪田ゼミは、一年かけて本について考えるゼミです。4月、A4の紙で本を表現するのからはじまり、5〜6月には既存の本に合う帯をデザインして作り、夏にゼミ誌を作り、秋から冬にかけて自分が作りたい本を考え、作ります。
かなり自由で、自分のやりたいことがあったらどんどんやろうというゼミです。そのため、個人の発表は十人十色で本当に面白いのですが、結構個人作業が多い印象です。なんなら出席確認等もしないので、自分の作品さえ作れていれば……感があります。
ゆえに今回のゼミ誌は、初めての共同制作だったこともあり、ゼミ生全員の個性が詰まった、とても自由なものになりました。
自由でありながらも、自分ではない他の子の編集や、他の子の記事と合わさることにより、自分が作っていたものより、はるかに良い記事を完成させることができたように思います。
私たち窪田ゼミが作ったゼミ雑誌『fiction』、ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。
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