何の役に立つのか
わからなかった授業も、
卒業後に経験したいろいろな
仕事も、みんな今の自分に
必要だった

美術学科卒業
石井 おり絵

一つのジャンルにとらわれず、
演劇を幅広く学ぶ楽しさ

小さい頃から物語を考えることが好きで、小学校のお楽しみ会の出し物でお芝居を作ったりすることも好きでした。高校時代は演劇部で、大学を選ぶ時には漠然と「演劇を学んで、それを仕事にできたらいいな」と考えていました。でも、演じる一辺倒ではないなと思い、1年次から「演技」などに限定されず幅広く学べるコースを選択しました。それが今はなき理評コースです。理論・評論で「理評」ですが、演劇を地域、教育、医療、福祉などに繋げる「応用演劇」を学び、「演劇」の可能性を考えるコースでもありました。

学びを通して「制作」に興味を持つようになり、企画やプロデュースに関する授業を多く選択するようになっていったのですが、今思い返すと、コース内の幅広い授業はどれも結構、好きでした。

印象に残る、2つの実習授業

一つは総合実習。演劇学科の各コースが集まって一つの舞台を作るのですが、演技、装置、照明など方向性がハッキリしているコースに比べて理評コースは何を担当するか決まっていない。私は制作を選びましたが、当時はコースがなかった音響や舞台監督などを選ぶ人もいましたね。いろいろなことが経験できてよかったと思います。

そしてもう一つが理評実習。1、2年のキャンパスは所沢にあったのですが、キャンパス内で働いている方々へのインタビューを基にその人の人生を演じたり朗読したりして発表する取材劇や、キャンパス周辺を散策して地図を描いたり、所沢駅の商店街の中にある蔵でイベントを企画したり。どれもワークショップ的で面白かったんですが、何の役に立つのか、当時は明確にはわからなかったです。思わず「意味がわからない…」と口をついて出てしまい、同級生にツッコまれたことも。でも、後から考えると、演劇を活用した企画やワークショップを考えたりする時などに役立った。ちゃんと意味のある授業でした。

人と出会い、人とつながれたから、多様な経験が積めた

4年生の時、コースの先生の紹介で公共劇場でのインターンシップに参加しました。その中で、コピーを取る、美味しいコーヒーを煎れる、字をきれいに書くなど、演劇とは無関係だけれど社会人として大事な基礎がまったくなっていないことに気づき「社会に出るのはまだ早いな」と痛感しました。そこで2年間「考えよう」と。教授の勧めもあり日藝で副手を経験。楽しかったのですが、今度は「演劇界、狭いな。演劇以外にも目を向けよう」と考えるように。映像や演劇を主業務とした会社が新しくイベント企画の部署を立ち上げると知り、そこに就職しましたが、結局舞台制作の部署に所属することになり、演劇制作の道へ。ただ会社の社風からか「いかにも演劇!」という感じではなく、そんな方たちと一緒に仕事をするのは新鮮でした。演劇に対する知識は少なくても、一緒に真剣にモノづくりに立ち向かうことはできると知り、視野が広がりました。

作品の方向性が合わないことに対する違和感が大きくなり退職を考え始めたタイミングで日藝の先輩から「劇場で新しく劇団を立ち上げる」と誘っていただき、転職。演出家の蜷川幸雄さんが芸術監督を務める公共劇場で、蜷川さんが立ち上げた若手俳優育成プロジェクト「さいたまネクスト・シアター」の制作を担当することになり、同時に高齢者の演劇集団「さいたまゴールド・シアター」の作品作りにも参加しました。利益追求が第一ではなく、文化芸術の創造・発信拠点として、地域貢献や人材育成などにも力を入れる公共劇場のありようは、それまで関わってきた商業演劇とは目的が違うのでギャップを感じましたが、とても勉強になりました。蜷川さんとの出会い、創作過程を間近で体験できたこと、素晴らしい作品に携われたことは、本当によかったと思っています。

2016年に転職を決意。その時に「東急文化村」を勧めてくれたのは、当時の上司です。いろいろな職場を経験しましたが、どこでも素敵な出会いがありました。そしてそれが次につながる。運がいいですね。日藝には他よりもちょっと多く、その「きっかけ」が転がっているように感じます。

大好きな演劇だから。
楽しく働ける環境づくりをしていきたい

今の職場に来て約6年。様々な演出家の方やプロの俳優さんたちとお付き合いすることは前職では多くはありませんでしたし、予算管理も難しい。しかも、コロナ禍では、海外から演出家を招くのにも大変な苦労があったり、沢山の制約に縛られながら上演する時期が続いたりもしました。制作の使命のひとつは幕を開けることですが、そこまでの苦労は大きい。でも、客席でお客さまが喜ぶ姿を見ると、「ツラかったけど、ま、いいか」と心から思います。大変だけど、楽しいからやめられない。

最近よく思うことは、時間と根性と体力勝負だけではやってけないよなぁと。情熱を持って入ってくる下の世代がつらくてやめてしまわないように、時代の変化に少しずつ耳を傾けなくてはと思います。働きやすい職場環境をサポートすることもこれからの目標のひとつです。人に優しい環境をつくり、舞台を観る人、演じる人、支える人、周囲で関わるすべての人に楽しんでもらいたいですね。

(※職業・勤務先は、取材当時のものです)

石井おり絵 いしい おりえ
2005年演劇学科理評コース卒。
映像・舞台関連会社、公共劇場などを経て、株式会社東急文化村入社。
舞台芸術事業部に所属し、演劇の企画制作業務に携わる。

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