写真:田熊大樹

制作は生活そのもの。
日々を淡々と積み重ね、
美術を更新していきたい

映画学科
小池 一馬

彫刻を学びたい。
そしてたどりついたのが、日藝

違う場所、違う時代、違う信仰―。それらに由来するイメージをミックスして、私は彫刻や絵画作品を制作しています。これは、日本、アルゼンチン、スペイン、3つの国で暮らした経験が影響していると思います。

父が転勤族のため、5歳でアルゼンチン・ブエノスアイレスに転居。中学生時代は日本に戻り、スペイン・バルセロナの高校で3年間を過ごしました。幼少期には旅行好きの父に連れられて、南米やヨーロッパの国々で、さまざまなものを見てきました。小さな頃から恐竜の骨や古美術などが好きでよく博物館に見学に行きましたが、それ以外では教会に強くひかれたことを覚えています。美術と信仰の結びつきが体感できる、建築も含めた空間全体に魅力を感じました。そして中学生の頃にはもう、将来は美術の世界に進みたいと考えるようになっていました。

彫刻を学びたいと思った理由は、高校生の頃にバルセロナの美術館でスペイン出身の彫刻家、Josep Claràの作品で構成された展示室に出会ったことです。天窓から光が差し込み、具象彫刻やレリーフが雑然と置かれているその部屋に、とても魅力を感じました。彫刻を的確に配置することができれば「空間を作る」ことができる。それから彫刻を意識して見ることが始まり、大学では彫刻を勉強したいと考えて選んだのが、鉄を中心とした彫刻に強い日藝の美術学科です。帰国子女枠があったことも、大きな理由でした。

個展/私立大室美術館(三重/2021) 写真:若林勇人

先生から、学生から。
多くの学びと刺激を得た4年間

授業で特に印象に残っているのが、金子啓明先生の古美術研究。授業で京都や奈良の寺院を回って仏像を見学したことを覚えています。普段は公開されていない仏像も金子先生と一緒だと見せていただける。この授業がきっかけで、仏像の魅力に目覚めました。金子先生に教えてもらい見に行った横浜の弘明寺にある鉈彫りの十一面観音からは大きな影響を受けています。現在は大阪在住なこともあり、今でもよく京都や奈良の寺院に仏像見学に行きます。いいものをじっくり見るのは勉強になるし、楽しい。

もう一つ印象的だったのが、多和圭三先生。彫刻の授業がためになったのはもちろん、先生からは制作に向き合う姿勢を学ぶことができました。校舎に近づくとカキーン、カキーンという音が響いてくる。多和先生が鉄の塊をハンマーで叩いて作品を作っている音です。授業をしているそばで淡々と作る姿を見せてくださいました。作品を作るには時間がかかります。でも時間を積み重ね、毎日ジワジワと作り続けるしかないんだよ、ご飯を食べるように毎日、生活の中心としてやり続けることが大事なんだよ、と、作る姿を通して教えてくださったように感じています。

他学科、特に写真学科と映画学科の友人との交流も思い出に残っています。それまで知らなかった映画や本、音楽を教えてもらったり、一緒に展覧会に行ったり。映画学科で制作している映画の美術を担当して一緒にロケに参加したこともあります。楽しかったし、視野が広がりました。彼らとは付き合いが続いていて、今でも写真学科の友人に作品を撮影してもらっています。

TP210316 (Floating Head) / 2021 / 1303 × 970 mm / acrylic on canvas Photo by Hayato Wakabayashi

試行錯誤の10年。
それでも、作り続けた

卒業後、就職はしませんでした。アルバイトやフリーランスのグラフィックデザイナーとして働きながら、制作を続けていました。そのころは彫刻も続けていましたが、しばらくの間は絵画作品の発表が中心でした。いつかは美術だけで食べていきたいと思いながら、30代半ばまでは試行錯誤の連続でした。

ずっと土偶や埴輪、古い壺などが好きだったので、いつかは陶器を使って彫刻を作りたいと漠然と思っていたのですが、何をどう作るか、わからない。そこで、陶芸教室に通うことにしました。街にある、お皿や茶碗を作る普通の教室です。自宅から自転車で15分ほどの場所にある陶芸教室に通い、コップや鉢を3点ほど作った後に「彫刻を作ります」と先生に伝えました。最初は驚かれたと思うのですが、先生の協力のおかげで試行錯誤しながら、徐々に作りたいものが作れるようになりました。ここからセラミック素材を使った彫刻を始め、5年ほど前に黒の釉薬を使う今のスタイルが確立しました。

BC230220 / 2023 / H55.5 × W30 × D27 cm / ceramic Photo by Hyogo Mugyuda / Courtesy of Tezukayama Gallery

彫刻や絵画の「何か」を更新していきたい

彫刻家/画家としての活動のみで生計を立てられるようになったのはここ数年のことですが、アルバイトをしながら制作活動をしていた時期にも、やめようと思ったことはありません。制作活動を続けられた理由は「面白い」から。今では国内外で展覧会が開けるようになり、今年(2023年)2月にはパリで個展を開きました。今後もデンマークや香港、東京、京都、大阪で展覧会の予定が入っています。アメリカでも信頼できるギャラリーを見つけて作品を発表していきたい。

制作上も、やってみたいことが色々あります。彫刻では、サイズの大きなものを制作することと、それらをより空間的に配置した展覧会を考えています。絵画の方では、長年構想している茂みの絵を描きたいと思っています。偶然が作った重なりを写し、それをちょっと変えることで新しい絵画表現ができるかもしれない。

人間は大昔から絵を描き、作品を作ってきました。戦争で大変な時にも絵を描き続け、それを応援する人がいました。このように脈々と続く美術の流れを停滞させず、進めていきたい。今までにないものを作り、彫刻や絵画の「何か」を更新していきたいと思いながら、日々、淡々と制作を続けています。

個展/Galerie Julien Cadet(パリ/2023) Photo by Thomas Marroni / Courtesy of Galerie Julien Cadet

(※職業・勤務先は、取材当時のものです)

小池一馬 こいけ かずま
2003年美術学科彫刻専攻卒。43歳
彫刻家/画家として日本国内のみならず、香港、パリなどでも個展を開催し、国際的に活躍中

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