観察し、素材に触れ、
空間を意識する|。
彫刻制作での経験すべてが
庭造りに生きる

美術学科卒業
溝口 達也

音楽、映画、写真etc.
幅広い学科構成が魅力

普通科の高校に通っていたころはファッションが好きで、デザイン関係の道に進みたいと思っていました。それで美術予備校の基礎科に通うことにしたのですが、絵画や彫刻などを幅広く学んでいるうちに、デザインよりも粘土で像を造ったり、彫刻をするなど、立体物を制作する方がしっくりくると感じるようになり、大学では彫刻コースを選択しました。

他にも芸術大学はたくさんありますが、その中で日大を選んだのは、芸術学部内の他学科に惹かれたからです。日大芸術学部には8つの学科がありますが、その内容が音楽や映画、写真、放送など、バリエーションに富んでいます。これが新鮮に感じられました。他学科の友だちができたら視野が広がりそうだし、何しろ面白そうだ。そう思ったことが決め手になりました。

所沢ビエンナーレ1

先生の制作する姿を見ることが刺激であり、
学びだった

大学での4年間は、作品制作に打ち込む日々でした。午前中は一般的な授業を受け、午後は毎日、制作。入学前に思っていたよりもカリキュラムがしっかりしていたため、多くのことが身についたと思います。そして印象に残っているのが、先生方の熱意と距離の近さです。熱心に指導をしてくださることはもちろん、休日に一緒に展示を見に行ったり、お出かけしたり。まだ子どもだった自分に、彫刻のことだけではなく、社会のあれこれを教えてくださいました。

先生方は指導者であると同時に、制作者でもあります。一流の作家の制作活動を間近に見られることも、とても勉強になりました。刺激を受けたし、自分もああなりたいという気持ちが強くなっていったことを思い出します。卒業後もしばらく助手として芸術学部に残っていました。学生から助手時代を通して一番印象に残っているのは、彫刻コース有志で新潟県で行われた「大地の芸術祭」に参加したことです。空き家を片づけ、梁や柱を鑿で彫り、芸術作品として甦らせました。

新たにものを作るのではなく、廃屋というもともとそこにある素材を生かしてアートにできたことは、持続可能な循環型社会という時代のニーズに合った表現活動としても意味が大きかったと思っています。

所沢ビエンナーレ2

作品づくりで得た
コンセプトや問題意識が、
造園業へとつながる

こうした美術作品を制作する中でたどりついたコンセプトが「PANTARHEI」=すべては自然の循環の中に、です。このコンセプトを得た背景には、学生時代に行ったアンコールワットで、栄えた文化が自然に呑み込まれる姿を見て驚愕し、人も自然の一部という想いを強くしたこともあると思います。また、「大地の芸術祭」参加時に、若者が都会に出てしまい高齢化、過疎化が進む地方の問題を強く意識しました。そして、故郷を離れて東京で暮らしている自分がやっているのも、同じことなのではないかと、自分の生き方をふり返るきっかけにもなりました。こうした想いの先にあったのが、「故郷に帰り、父の会社で働く」という決断です。

私の父は庭の設計、施工会社を経営していて、私は小さい頃からその父の後ろ姿を見て育ちました。芸術系の道に進もうと思ったのも、父の友人に彫刻家や陶芸家、アーティストといった人たちがいたことが影響しているかもしれません。父がやっている庭造りの中にこそ、循環というコンセプトを具体的に表現できるフィールドがあるのではないか。

都会での暮らしは刺激的だが、東京で得た知識や日藝で学んだことを故郷に持ち帰り、地場産業に生かす生き方にも魅力があるのではないか。そう考えて故郷に帰り、庭造りを始めてから12年。父が他界した現在は、その会社の代表を務めています。

会社のメンバーと

会社のメンバーと

大町の庭

大町の庭

庭とも、学生時代からの
友人とも長い付き合いに

そこの自然に合った樹木を選んで植樹し、無理な剪定はしない。石を据え付ける時にはセメントを使わず、土で固定する。その土地、風土を読み解いて形にする。父の代から続く、そんな庭造りの考え方に賛同してくださる方々からご依頼を受けて、全国の個人邸やお寺、神社、公共空間など、多くの庭の設計、施工を手がけています。観察する、多くの素材に触れる、道具を使って加工する、空間を意識して作品を設置する。彫刻コースで学んだことすべてが、庭造りに生きています。

庭は10年、20年、30年と経っても、変わりながら続いていきます。そして、私たちはその庭と付き合い続けます。人工物を使わない庭造りは、微生物や昆虫、動物にも暮らしやすい環境づくりに通じます。持続可能な社会に直結する庭造りの仕事には、大きなやりがいを感じています。近年では、近隣の大学で「環境デザイン論」の講義をする機会をいただき、人が手を入れることでより豊かになる自然について、学生たちに話をしています。

「他学科の学生と友だちになったら楽しそう」は、思った通りでした。写真学科の卒業生に竣工した庭の写真を撮ってもらったり、展示の際に映画学科の卒業生に映像作品をお願いするなど、長い付き合いが続いています。日藝での学び、気づき、出会い。そのすべてが今につながっている。そう感じています。

倉淵の庭

倉淵の庭

(※職業・勤務先は、取材当時のものです)

溝口 達也 みぞぐち たつや
2002年美術学科彫刻コース卒。42歳。
(株)ランドスキップ代表として、庭造りに取り組む。

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