銅版画に魅せられた
「好き」を追求する
生き方。
絵への根源的な情熱と手先の器用さが導いた未来。
幼少期から絵を描くことが好きで、幼稚園の頃には子ども向けのアトリエに通い、小学校では休み時間に動物図鑑を模写するほど絵を描くことに熱中していました。
「うまいね」と褒められることが嬉しかったですね。それが絵を描き続けるきっかけになっていると思います。図工の時間は、自由な先生の授業で楽しさを感じ、絵を描く「図」の部分や、折り紙、パズルなど「想像力を使って何かを作る」作業を好んでいました。小学校の美術の授業で経験した木版画も、「違う道具を使って絵を描く」感覚であり、鉛筆で描くことと変わらないなという感覚を持っていました。
この「直接描く」「線を扱う」といった特性は、後の専攻選択や現在の仕事にも通じる、自分の根源的な制作スタイルを形成する基盤となったと考えています。
一時期ハマっていた釣り
卓球、登山、多肉植物、編み物、ビリヤードなど様々な趣味がある
探求心が生んだ版画への没頭と卒業制作。
中学・高校と美術部に所属し、高校進学の時点で大学にて専門的に美術を学ぶことを視野に入れ、芸術系の付属高校を選びました。大学では当初、油絵を専攻していましたが、筆よりも鉛筆のような「線」を扱うこと、そして「パキッとした描写」を好む自身の特性から、版画コースへと進みました。
大学で初めて触れたリトグラフは、クレヨンや鉛筆といった身近な画材で描いたものが版画になるという技法に驚きと共に面白さを感じ、先生からも適性があると言われるくらいのめり込んでいきました。卒業制作では、授業では扱われないほど難易度が高い「エングレービング」という銅版画の技法を選択しました。彫刻刀で直接、線を彫る最もダイレクトな方法であり、個人的に先生に教えを請い、没頭しました。この「難しいこと」や「新しい技法」を追求することは、自分自身の「職人気質」に通ずるものがあると考えています。
卒業制作（エングレービング）
年賀状用に彫った銅版
偶然が導いた職人としてのキャリア形成。
大学卒業後、絵本作家や美術教師といった道を模索しましたが、ストーリー制作の才能や、教育実習の経験などから人前で教えることへの適性についての不安があり、断念しました。
現在のジュエリー職人の道は、卒業制作の銅版画を制作していた際に、偶然にもジュエリー会社の職人から声をかけられたのがきっかけでした。当時は就職にそこまでの興味がなく、親への体裁のためにホームセンターの内定は得たものの、入社式で違和感を覚え退職をしました。その後、2年間はフリーターとして自宅で版画制作を続けていましたが、親から就職を促されたことで、かつて声をかけられたジュエリー会社のことを思い出し、面接を受けて入社に至りました。
現在の仕事は、指輪に石を留めるという作業で、大学時代に培った銅版画のエングレービングに通じる「彫る」という手の感覚が活かされています。平面に掘っていたものが立体的に、曲面になったり、肉眼ではなくマイクロスコープ越しでの作業になったりと違いはありますが、自身の技術と経験が活かされる仕事だと感じています。
ジュエリー製作の作業机
成長実感を原動力に、「異分野交流」は自分の活動の原点に
現在の仕事において、難易度の高い商品や新しいデザインに挑戦し、それができるようになることで「うまくなったな」という成長実感を味わうことに喜びを感じています。
自分自身が新しいことや難しいことに挑戦し、それを習得することに常にモチベーションを見出す「職人気質」だなと気付かされますね。これから受験を控えている高校生の方に向けてですが、日藝の魅力として「他学科との交流」があると思います。自身も体育の授業や学食を通じて、演劇学科、文芸学科、写真学科など多様な分野の学生と知り合い、自身の専門以外の知識や刺激を得た経験はかけがえのない経験となっています。
異なる個性を持つ学生たちが自然に交流し、それぞれの興味や視野を広げられる環境こそが、日藝の大きな魅力だと感じています。
（※職業・勤務先は、取材当時のものです）
株式会社 俄（NIWAKA) 製作課
