日藝が拓いた
テレビ美術の道
多彩な学びと人との出会い。
テレビ美術への憧れ
日藝との出会い。
高校まで剣道部に所属し、部活に打ち込む日々を送っていましたが、中学生のときにテレビ番組「めちゃ×2イケてるッ!」(通称:めちゃイケ)の美術セットに衝撃を受け、漠然とテレビの美術に関わる仕事に興味を抱いていました。
当時は美術系の職業を具体的に考えておらず、高校選択も「選択肢が広がるから」と普通科を選びましたが、大学進学を考える際、中学生の頃の記憶が蘇り、芸術系の学校を探し始めました。地元の愛知県や関西の芸術大学も検討する中で、高校の進路指導室にあった進学先を検討するツールとしてあったフローチャートを辿った結果、日藝の存在を知りました。
演劇学科からテレビ業界に進んでいる卒業生がいることを知り、さらに全国から人が集まってくるという日藝に魅力を感じ、自分の知らない未知の世界が開けるのではないかという期待から、オープンキャンパス等に参加をすることなく日藝への入学を決意しました。高校の先生からは一般教養を学べる国公立大学への進学を勧められましたが、テレビ美術への軸はぶれなかったです。

学生時セットを建てている様子(スナップ写真再撮)
剣道部で培った人間力と
芸術学部での多角的な学び。
大学でも剣道は継続をしました。日藝へ入学する前は学問として芸術に触れていなかったため、美術部や演劇部出身など専門的な視点を持つ同級生・先輩からの刺激が、自身の大きな学びの原動力になりました。
演劇学科装置コース(現舞台構想コース)では、台本を読み込み、ステージ上のセットを自ら考案して図面やスケッチを作成し、人前でプレゼンテーションをする実践的な授業を経験しました。さらに実習では実際に自分たちでセットを組み立て、上演もしました。
特に印象に残っている授業の一つとして「日本家屋」の模型製作があり、当時の建築法と同じ方法で木を切り削り、縮尺模型を製作することで、和室の建具の仕組みや土壁の塗り方など、実際の建築技術を体験しながら学びました。
学んでいる際は「テレビでも演劇でもない」と感じていましたが、現在、ドラマの和風建築のセットデザインを考える上で、セットが視聴者に違和感を与えないためにはどうすればいいのかを考え、正しいデザインをするために、今でも当時いただいた授業の資料を見返しています。
また、放送学科や文芸学科など他学科の授業も積極的に受講しました。アニメーション(特に新海誠監督の初期作品である『秒速5センチメートル』など)に触れること)で、それまで知らなかった映像表現の奥深さに衝撃を受け、自身の視野が広がった大きな経験となりました。さらに、体育の必修授業で知り合った他学科の友人と、卒業後も交流が続いているという日藝ならではの多様な人とのつながりの大切さも実感しています。
恩師の導きと自ら掴み取った
「テレビ美術デザイナー」の夢。
大学卒業後の進路として、テレビ業界を目指し、現TBSアクト(当時の会社名アックス)社から内定をいただきました。他社への思いもあり悩みましたが、4年間指導をいただいた演劇学科の沼田先生が日藝のOBも在籍していることを踏まえて、「いい会社だよ〜」と背中を押してくれたことが、入社を決める大きな要因となりました。
入社後8年間は、デザイナーではなく美術制作として、現場の美術的な段取りや道具の準備など進行業務の仕事を担当しました。しかし、デザイナーになりたいという目標は持ち続け、機会を粘り強く待ち続けました。
ある番組でデザイナーがくれた機会を掴み取り、美術制作業務の傍ら手がけたデザインの実績を評価していただき、念願のデザイン部への異動が実現しました。与えられたチャンスを逃さず、自らの技術と熱意で道を切り開くことが大切だと感じた経験です。

9ボーダー現場
難題を乗り越え「最高の当たり前」を追求するプロの仕事。
現在はテレビ美術デザイナーとして活動し、最近では日曜劇場「VIVANT」のセットデザインを手掛けました。通常のドラマは多くても5~10種類程度のセットですが、「VIVANT」では50種類以上という数になり、特に「洞窟」や「モンゴルの家」といった多様なロケーションのセットを、リアリティを追求しながら設計することに苦労しました。
「セットは主張するのではなく、物語に溶け込むようにあるべき」という信念を持っており、視聴者に違和感を与えない「当たり前のリアル」を追求することが、美術デザイナーの最も難しく、最も大切な仕事だと考えています。
日藝での学びは、専攻していた舞台美術についての知識がメインではありますが、多様な価値観を持つ仲間との出会いを通じて、現在の仕事に多角的に活かされているなとも感じます。
特に、仕事で様々な状況を考える際に、異なる分野で活躍する日藝の卒業生ネットワークがヒントやアドバイスを得る上でかけがえのない財産となっています。
何かを突き詰めている人だけでなく、自分のように入学時は幅広い知識を持っていなかった人間でも、日藝の4年間で価値観が大きく変わり、多種多様な人との出会いを通じて、自分の可能性を広げることができると思います。

VIVANT モンゴル現場風景1

VIVANT モンゴル現場風景2
(※職業・勤務先は、取材当時のものです)

株式会社TBS ACT デザイン本部 美術デザイン部
主な担当番組:「VIVANT」「ドラゴン桜」「オー!マイ・ボス 恋は別冊で」「私の家政夫ナギサさん」「インハンド」など第51回伊藤熹朔賞本賞受賞、第48回伊藤熹朔賞新人賞受賞